民主法律時報

フジ住宅ヘイトハラスメント事件 尋問期日のご報告

弁護士 冨田 真平

 フジ住宅ヘイトハラスメント事件とは、「韓国人は嘘つき」などの民族差別的な文書を社内で全社員に配布したり、育鵬社の教科書を採用させるために従業員を教科書アンケートに動員するなどした会長及びフジ住宅の行為に対して従業員の在日コリアンの女性が損害賠償を求めた事件です(大阪地裁堺支部、中垣内健治裁判長)。詳しい事件の内容につきましては、民主法律時報2015年10月号をご参照ください。
同事件について、2019年10月31日に行われた尋問期日についてご報告いたします。

 尋問は当初10時開始予定でしたが、傍聴の抽選に並んだ人数が約750名(従前は120~130人程度)であったことから、抽選券の配布等に時間がかかり、開始が45分遅れることになりました。これは、フジ住宅が社内で傍聴を呼びかけたことにより、平日の朝の時間にもかかわらず、フジ住宅の社員・関連会社の社員と思われる人たちが大量に動員されたためと思われます。実際にフジ住宅の「支援者」を名乗る人物のブログでは、フジ住宅の社員が500名、その家族・友人が100名と記載されていました。これだけをとってみてもフジ住宅の異様さが感じられました。

そして、このようにフジ住宅側が大量に抽選に並んだことにより、会社側が多くの当選券を手に入れ、法廷は会社側の役職者や会長の「支援者」が傍聴席の多くを占める異様な雰囲気となりました。このようなフジ住宅がとった手法について、今後どのような対抗手段を講じるかについても検討が必要だと感じました。

 原告本人尋問では、原告がフジ住宅に入社してから資料配付が始まるまでの社内の状況、資料配付や従業員の感想文の配布などが始まり変わりゆく社内の状況、さら教科書動員や、提訴後の原告に対する攻撃などについて話し、これらの行為が行われる社内の中でどのような思いをして働いてきたのかを懇々と語りました。

原告の口からは、会社が配布した民族差別的な文書や慰安婦問題についての文書などを見てとてもつらい思いをしてきたこと、そのような文書配布に感謝を述べる従業員の感想文が配られ、さらには「在日特権」デマの文書が配布された後に同僚から「税金払ってないの?」と聞かれたり、上司が「韓国の国民性が嫌い」などと書いた感想文が配られるなど、回りの従業員が配布文書に影響を受けて変わっていった様子、退職後に会社に異議を述べた社員が攻撃されるなど異議を言えない状況であったことなどが詳細に話されました。

そして、そのような職場の中で韓国人は嘘つきだなどという配付資料に並ぶひどい言葉が、仕事をしている時も家に帰って家事をしているときも頭から離れない日々を過ごしてきたということが話されました。

最後に原告の口からこの裁判についての思いが語られましたが、その中でも「今回の件で会社や会長から受けた傷は裁判が終わっても一生治らないと思う」、「フジ住宅は自分にとっては大切な職場であり会社には変わって欲しい」という言葉が心に残りました。

 会長の尋問では、主尋問では長々と自分の考えを語り続け、反対尋問では、「在日特権」デマに関する文書やヘイトスピーチが含まれる文書について指摘されると、自分が配布させた文書であるにもかかわらず、ちゃんと見ていないなどと述べ、さらには今回の事件で問題になっている民族差別的な文書について、こちら側からの指摘を受けて内部で検討をしたのかという問いに対して、検討もしていないし反省もしていない旨述べました。さらには、「自分は正しい」、「フジ住宅は素晴らしい」、「こんな素晴らしい会社を訴えたことについて原告も弁護士も反省しろ」、などと述べ、今回の行為の問題性を全く理解せず反省もしていないことが明らかとなりました。

さらに、会長は、原告側からの反対尋問の際に不規則発言を何度も行い、質問に対してきちんと答えないことも多く、裁判長から何度も「ルールを守ってください」「質問に答えてください」と注意を受けてもその態度が変わることはありませんでした。

最後まで自分が正しいと言い続け、裁判所のルールすら守らない会長の態度を見て、このような会長に対して会社内で従業員が異議を述べることができない状況が容易に推測されました。

 4年以上続いた裁判もいよいよ大詰めを迎えています。今回の尋問で改めて原告の被害、そしてフジ住宅、会長の異常さ、さらにはまさに会長による会社の私物化の実態が浮き彫りになりました。原告が尋問の最後に述べた会社に変わって欲しいという願いを実現し、原告が安心して働ける職場にするため、法廷の内外で原告・弁護団・支える会が一体となって闘っていきますので、今後ともご支援いただきますようお願い申し上げます。

(担当弁護士は、村田浩治、河村学、南部秀一郎、金星姫、瓦井剛司、馬越俊祐、安原邦博、清水亮宏、冨田真平)

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