民主法律時報

はじめての労働委員会 実効確保の措置勧告の申立――大阪市食肉市場事件

弁護士 脇山 美春

弁護士になって半年たった6月上旬。尊敬してやまない村田浩治先生と共同でやっている事件の期日を終え、次の予定までゆっくりしようと思っていた私に、村田先生は声をかけた。
「今から打ち合わせなんだけど脇山さんも同席しない?」
まあ暇だからいいか。そんな軽い気持ちで同席した打ち合わせ、これが私と大阪市食肉市場労働組合との出会いだった。
「組合員35名全員、7月 日で解雇されるんです。数日前に、組合員だけに、解雇が告げられたんです」組合の執行委員長は言った。

今時そんな典型的な支配介入があるのか。教科書でしか見たことがないぞ。
そして7月15日って、あと1か月じゃないですか。そんな短期間の間に 人も路頭に迷うんですか。でも何をすれば間に合うんだ。労働委員会に申し立てても、1回目の期日までに解雇されてしまうのでは…?
私は軽い気持ちを吹っ飛ばすほどの衝撃を受けると同時に、パニックになった。

そんな中、村田先生は言った。「とにかく急いで労働委員会に申し立てるしかないなぁ。実効確保の措置勧告の申立てもしたらええかもしれん。」
実効確保の、措置勧告。なんだそれは。
実効確保の措置勧告とは、労働委員会規則第 条に定められているもので「委員会は、当事者から申立てがあったとき…当事者に対し、審理中であっても、審査の実効を確保するため必要な措置を執ることを勧告すること」らしい。
なるほど、つまり労働委員会は、期日に先立って解雇を止めることを勧告することができるということか。それなら解雇を阻止できるかもしれない。

そういった経過で、私の「はじめての労働委員会」は、ほとんど例を聞いたことのない実効確保の措置勧告の申立とあわせて、かつ非常に速いスピードで申し立てることを要求される形で、幕を開けた。
私は、自分でも信じられないくらい荒い不当労働行為救済申立書を起案した。村田先生は実効確保の措置勧告の申立書を起案し、井上耕史先生が双方をチェックした。そして7月1日、大阪市食肉市場株式会社を被申立人とするこれら二つの申立書を、大阪府労働委員会に提出した。

すると7月8日、大阪市食肉市場株式会社は労働委員会に対し、「7月 日の整理解雇は実施しいたしません」とする意見書を提出した。
労働委員会はこの意見書の影響もあってか、実効確保の措置勧告を出すことはなかった。しかし、7月15日から現在までの間、大阪市食肉市場株式会社は、組合員をだれ一人として解雇していない。組合員の解雇の危機は、一応過ぎ去ったのである。
実効確保の措置勧告を申し立てた効果があってよかった、この申立てをしたから、なんとか間に合った。そう私は思っている。
また、この危機回避を経て、組合の団結は今までにないほど強くなっているようで、積極的に団体交渉に臨んでいる。こういう効果をもたらしたという点でも、実効確保の措置勧告を申し立てた意味があった、と評価してよいだろう。

しかし、会社は組合との団体交渉に誠実に応じないし、組合の上層部に対してした理由のない懲戒処分の問題など、解雇以外の不当労働行為の問題が残っている。会社も、解雇の可能性を完全に否定したとはいいがたい状況でもある。
どうやら私の「はじめての労働委員会」は、まだ終わらないようだ。
村田浩治先生、井上耕史先生と一緒に、なんとか良い解決を導けるその日まで、全力で頑張ろうと思う。

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