弁護士 西川 大史
1 はじめに
日本郵便で働く期間雇用社員8名(郵政ユニオンの組合員)が正社員との格差是正を求めた郵政西日本20条裁判で、大阪高裁(中本敏嗣裁判長、橋詰均裁判官、三島恭子裁判官)は、2019年1月24日、年末年始勤務手当、住居手当、祝日給、夏期冬期休暇、病気休暇についての格差が不合理であるとの勝利判決を言い渡しました。
もっとも、本判決は、格差が不合理であると認めた手当・休暇のうち、住居手当を除いて、契約期間が通算して5年を超える期間雇用社員に限って、格差が違法であるという特異な判断を示しています。
2 事案の内容、事実経過
本件では、日本郵便の外勤業務に従事する期間雇用社員が、正社員業務内容は全く同じであるにもかかわらず、①外務業務手当、②郵便外務業務精通手当、③年末年始勤務手当、④早出勤務等手当、⑤祝日給、⑥夏期・年末手当(賞与)、⑦住居手当、⑧扶養手当、⑨夏期・冬期休暇、⑩病気休暇について、著しい相違があるとして、その是正を求めて、2014年6月に提訴しました。
それに対して、大阪地裁(内藤裕之裁判長)は、2018年2月21日、年末年始勤務手当、住居手当、扶養手当について、格差が不合理であると判断しました。また、郵政東日本 条裁判でも、東京高裁は、2018年12月13日、年末年始勤務手当、住居手当、夏期・冬期休暇、病気休暇について、格差が不合理であると判断しました。
3 前進? 後退? 特異な大阪高裁判決
大阪高裁判決は、大阪地裁判決と同様に、年末年始勤務手当、住居手当については、格差が不合理であると判断するとともに、地裁判決が認めなかった祝日給、夏期・冬期休暇、病気休暇についても不合理な労働条件の相違であると判断しました。一歩前進です。他方で、大阪高裁判決は、大阪地裁判決が不合理な格差と認めた扶養手当については、長期雇用を前提として、基本給を補完する生活手当であるとして、不合理ではないとの判断を示しました。また、当事者・組合・弁護団が力点を置いた賞与についても、地裁判決を引用してのわずか4行だけの判断で、その不合理性をあっさり否定しました。
大阪高裁判決で何よりも不当だと個人的に感じているのは、住居手当を除く手当について、契約期間が通算して5年を超える期間雇用社員に限定して、労働条件の相違が不合理であるとの判断を示したことです。これまでの裁判例でもこのような判断を示されたことはありませんし、会社側もこのような主張は一切していません。あまりにも唐突な判断でありました。大阪高裁判決は、5年で線引きする明確で説得的な理由を示していませんが、判決文には「労働契約法18条参照」とあり、契約期間が5年を超えると無期転換権が発生することを念頭に置いたのでしょう。たしかに、日本郵便で働く期間雇用社員には5年や10年を超える長期間就労している労働者も多数おり、原告8名のうち7名は提訴時点で契約期間が通算して5年を超えていました。しかし、通常は、契約期間が通算して5年を超える有期雇用労働者は少なく、仮に大阪高裁判決の論理がまかり通れば、圧倒的多数の有期雇用労働者が救われないことになりますし、5年直前での雇止めも誘発するおそれも高まります。労働契約法20条は契約期間の年数により合理性の有無を判断する条文ではありません。労働契約法 条及び非正規労働者の現実への理解を欠いた特異な判断というほかありません。
4 最高裁で前進を!
郵政西日本裁判の舞台は最高裁に移ります。この間、大阪医科大事件やメトロコマース事件などの20条裁判で、非正規労働者の権利を前進させる判決が続いています。大阪高裁判決も、大阪地裁・東京高裁判決を継承し、夏期冬期休暇などの不合理さを認めた点での前進もあります。しかし、賞与をはじめその他の手当の不合理性が認められなかったことや、やはり契約期間が通算して5年を超える期間雇用社員に限って格差が違法であるとの判断は看過できません。最高裁で必ず是正させて、不合理な労働条件の相違に苦しむ非正規労働者の権利実現、前進につなげていければと思っています。
(弁護団は、森博行、斉藤真行、中島光孝、河村学、楠晋一、髙木佐知子、植田豊、小谷成美各弁護士と西川大史)