弁護士 細田 直人
1 2018年(平成30年)5月22日、フィンランド航空会社(以下、被告といいます。)を相手取り、配転の無効を求めて提訴しましたので、ご報告致します。
2 被告は、フィンランド共和国が経営し、フィンランドの首都ヘルシンキ・ヴァンター国際空港を拠点に全世界130カ国以上に就航し、日本には、成田・中部・関空・福岡に拠点を置く航空会社です。
原告らは、被告に中途採用され、採用時から被告の名古屋ベース(中部国際(セントレア)空港)に所属し、名古屋―ヘルシンキ便(「名古屋便」)を担当してきた5名の女性客室乗務員です。原告らは、前職でも、各々異なる航空会社に勤務し、その拠点空港所属の客室乗務員として、全世界の便を担当していました。そのような原告らが、結婚などを機に日本国内に生活拠点を移すことを検討していた時、名古屋・関空―ヘルシンキ便の担当客室乗務員を被告が募集していたことから、応募し、被告に採用されることとなりました。
原告らは、採用面接において名古屋ベースの所属を希望し、中途採用に応募した経緯を説明しました。被告は、この原告らの名古屋ベース所属の必要性も認識した上で採用し、名古屋ベースの所属としたのです。
しかも、被告の代理人は、本件配転命令の約10年前の団交においても被告の代理人として出席し、客室乗務員らは勤務地限定契約である旨を説明していることから、原告らは、第1に勤務地限定契約を主張しています。
本件配転命令は、平成29年11月6日被告名古屋ベースの閉鎖を理由に、原告らが所属する日本人客室乗務員労働組合に事前協議等もなく、突然、原告ら名古屋ベース所属の客室乗務員らに対して、平成30年7月から成田ベースへの異動を命じるものでした。
被告は本件配転命令が名古屋ベースの廃止に伴うと主張していますが、実際のところ、名古屋便が就航取りやめとはなりません。むしろ、同便は今年から増便が決定しています。さらに、被告は、本件配転命令後の団交において、当初、配転の理由として、ヘルシンキ採用の日本語のできる客室乗務員と日本人客室乗務員との混乗を禁止する本国組合との協約があると主張していました。しかし、原告らが確認したところ、そのような協約は存在しませんでした。その後、被告は本件配転命令の理由を、混乗させる勤務編成を組むシステムがないという理由に変遷させています。
このように、原告らは、被告のヘルシンキベースで新規採用した、日本語を話すことができる客室乗務員に名古屋便を担当させるために、成田に配転させられたのです。
他方、本件配転命令により、原告らは勤務のたびに、スーツケースなどの荷物をもって、名古屋周辺の自宅から最寄りの駅までタクシーで向かい、在来線の始発に乗り、名古屋駅で新幹線に乗り換え、品川駅で特急に乗り換えるなど、その片道の通勤時間は4時間です。1本でも遅れれば、搭乗する飛行機に間に合いません。しかも名古屋駅からは全て通勤ラッシュ中の乗り換えです。その後、約10時間のフライトに従事します。フライト業務は、年間900時間の勤務時間制限がなされ、フライト後は2日間の休養が義務付けられるほどの重労働で、その疲労は著しいものです。
原告らは、育児や介護に従事しており、ヘルシンキに長期滞在する便に従事することは難しく、ヘルシンキ到着後、ホテルですぐ休み、翌日の10時間のフライトに備えます。翌日のフライト後には、4時間かけて帰宅し、すぐに育児・介護に従事するのです。
名古屋ベースでは、会社が定める2時間以内で通勤できる居住地であったため、帰宅後、仮眠をとる時間もありましたが、4時間の通勤となればそのような暇もありません。
しかも被告は、交通費を1年間は全額支給するが、2年目は75%、3年目は50%、4年目以降は成田ベースの客室乗務員の程度とすると通知し、団交により何度改善を求めても一切応じない始末です。
3 原告らへの不利益はほかにも様々ありますが、身体的・精神的・経済的に著しい不利益を発生させる本件配転命令を、勤務編成の手間という理由で行い、虚偽の理由を述べ、補償の水準を一切上げない態度からしても、被告は原告らを退職に追い込もうとしているといわざるを得ません。
本件配転命令は、新規採用労働者に業務を提供し、現職労働者の従来の仕事を奪い、著しい不利益を課すものです。このような配転命令を受け容れることはできないとして、原告らは、仮処分および本訴を提起しました。
現在は、仮処分手続きが先行し、勤務地限定の合意の有無、不利益の程度が争点となっています。また、東亜ペイント事件の判例変更も求めています。
名古屋地方裁判所に係属している事件ですが、ご支援のほどよろしくお願いします。
(弁護団は、豊川義明、佐々木章、細田(大阪)、樽井直樹(名古屋))