民主法律時報

泉佐野市事件――中労委と大阪高裁でも不当労働行為を認定! 高裁では救済範囲について大きな課題

弁護士 谷  真介

1 泉佐野市事件の概要――3つのコースで係争が続く

泉佐野市では、平成23年に職員の給与カットを公約に初当選した千代松市長誕生以降(平成27年に2選)、維新もどきの市政運営で、職員に対する数々の労働条件切り下げと労働組合軽視・無視の不当労働行為が繰り返されてきた。泉佐野市職労は、平成25年以降、6件もの救済申立に踏み切ったところ、府労委ではその全てで不当労働行為が認定された。しかし、泉佐野市はこれらを受け容れず、再審査申立や取消訴訟を提起。①職員基本条例や退職手当削減条例上程、夏期一時金交渉等の団交拒否や組合事務所の一方的な使用料徴収及び団交拒否(中労委)、②チェックオフの手数料徴収通告及び廃止(大阪高裁)、③給与削減条例に関する不誠実団交(大阪地裁)という3つのコースに分かれて係争が続いていた。

昨年12月、①について中労委命令が交付され、②について高裁判決が言い渡された。一連の泉佐野市事件で中労委や高裁レベルでも不当労働行為が認定されることになったが、②の高裁判決では救済の範囲に大きな課題を残すこととなった。

2 組合事務所使用料その他事件――中労委命令の概要と意義

平成27年1月、府労委は、職員基本条例や退職手当削減条例上程、夏期一時金交渉等の団交拒否や組合事務所の一方的な使用料徴収及び団交拒否については全面的に不当労働行為と認定する命令を交付した。特に組合事務所使用料について減免不承認をも不当労働行為とし、これに関する団交については団交応諾を命じた点では非常に意義のあるものであった。泉佐野市は不服として中労委に再審査申立をしたところ、中労委は泉佐野市に強く和解を打診したが、結局泉佐野市はこれに応じず、命令交付に至った。

昨年12月12日に交付された中労委命令(命令日付は11月16日付け)では、泉佐野市の再審査申立をすべて棄却し、すべての行為について不当労働行為であるとして断罪した。特に、組合事務所に関する団交応諾に関しては、大阪市において連合・自治労系組合の事件で中労委は団交応諾を命じた府労委命令の救済の内容を変更していたため、本件でも同様に後退が危惧されていたが、本件中労委命令では団交応諾を明確に維持した。組合事務所の使用料そのものについては管理運営事項であるとしたものの、それ以外の申入れ事項(減免不承認理由や不承認による組合の不利益回避、代替手段・措置の可能性等)については団体的労使関係の運営に関する義務的団交事項にあたると明確に判断したのである。地方自治体における組合事務所使用料に関する一方的変更問題について、支配介入や団交拒否の不当労働行為を認めたのは本事例が初めてであると思われる。大阪府下、全国でも同様の事例があることから、この点は非常に意義のある命令である。

しかしながら、泉佐野市はこれを不服として取消訴訟を提起する議案を市議会に上程、12月21日に市議会でこれが可決されてしまった。

3 チェックオフ事件――高裁判決の概要と大きな課題

チェックオフ事件は、平成26年2月に突然、泉佐野市が数十年間無償で行ってきた組合費のチェックオフ(チェックオフ自体の根拠は条例)に3%の事務手数料を徴収する、これに応じなければチェックオフを中止すると通告し、泉佐野市職労が申し入れた団体交渉は管理運営事項として拒否したまま、結局チェックオフを中止したという事案である。チェックオフを中止され、市職労は金融機関の口座引き落としに変更及び手集めで集金せざるを得ず、毎月の組合費徴収に多大な労力と費用がかかっている。

府労委は、平成27年7月、支配介入・団交拒否の不当労働行為に該当するとして、①手数料を徴収することなくチェック・オフを再開すること、②チェック・オフが廃止されたために組合が自動送金により組合費を徴収したことにより生じた送金手数料相当額の実損を回復すること、③同様の不当労働行為を繰り返さない旨の誓約文の手交を命じる救済命令を交付した。

これに対し泉佐野市が取消訴訟を提起した。昨年5月18日の大阪地裁判決では厳しく不当労働行為を断罪する一方で、申立人適格に関して、労組法適用職員と地公法適用職員の混合組合の申立人適格自体は認めながら、チェックオフは組合員ごとに可分であるとして、地公法適用職員の組合費のチェックオフ部分に関する部分について労働委員会が救済命令を行う権限がないとして、同部分についてのすべての命令を取り消した。

しかし、チェックオフ廃止は労働組合と使用者との合意によってなした便宜供与を一方的に取り消すことで、一つの団結体たる労働組合そのものの影響力を弱める一つの支配介入行為である。労働委員会がなすその使用者の影響力行使の排除についても地公法・労組法適用の別なく、一体的に排除する権限があると考えるべきである。この点についての判断を改めさせるべく、泉佐野市職労は大阪高裁に控訴した(府労委、泉佐野市も控訴)。控訴審では、西谷敏大阪市大名誉教授に支配介入とチェックオフに焦点を当てた鑑定意見書を作成いただき、高裁に迫った。

しかしながら、昨年12月22日の高裁判決は、支配介入、団交拒否の不当労働行為は認めたものの、地公法適用職員部分に関する組合(及び府労委)の主張をほとんど理由なく排斥した。しかも、地裁判決でも維持されていたチェックオフ廃止による実損回復命令を民事事件の損害賠償に相応するもので労働委員会の裁量を逸脱するとして、不当にも取り消した。このように地裁判決よりもさらに後退した判決であった。

組合は、この救済の峻別化の問題は泉佐野市だけの問題にとどまらず全国的に波及する問題であることを強く受け止め、議論の末に最高裁への上告受理申立を決定した。なお、泉佐野市も不当労働行為認定部分を不服として上告受理申立を行った。大きな課題を残し、舞台は最高裁に移ることとなった。

4 今後の闘い

一連の泉佐野市の事件は、最高裁、東京地裁、大阪地裁の3つで係争が続くことになった。本当に長い闘いになっているが、まず押さえなければならないのは、これまでの命令、判決の全てで、泉佐野市の不当労働行為が厳しく断罪されていることである。泉佐野市職労は、現場でのたたかいを軸に、裁判闘争でさらに勝利を積み重ね、一日も早く労使関係の正常化を図るべく奮闘を続ける決意を固めている。引き続きご支援をお願いしたい。

(当初の常任弁護団は大江洋一、増田尚、半田みどり、谷真介であったが、チェックオフ事件控訴審より豊川義明、城塚健之両弁護士に加わっていただいた)

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