民主法律時報

橋下前市長メールの非公開決定を取り消す―― 一対一メール訴訟判決の報告

弁護士 服部 崇博

 橋下徹前大阪市長は、平成24年11月17日、政党「日本維新の会」の代表代行に就任し、同日以降、平成24年12月16日の第46回衆議院議員選挙投票日までの間、 全国を遊説し、庁舎に登庁しない時期がありました。にもかかわらず、橋下前市長は、その期間中も大阪市から給与を受け取っていたことから、その給与の返還を求める住民訴訟を平成25年に大阪地方裁判所に提起しました(市長給与返還住民訴訟であり、現在上告中です。)。その住民訴訟において、大阪市は、橋下徹前市長は登庁していないが、職員に対し、メールなどで指示を出し、市長としての業務は行っていたと主張したため、そのようなメールが本当に存在するのか否か、見張り番弁護団で調査することとなり、橋下徹前市長と職員との間で送受信されたメールについて情報公開請求を行いました。

その情報公開請求において、実施機関(大阪市長)は、大阪市長と複数の職員との間で送受信したメールは公文書であるから公開するとの決定を行いましたが、大阪市長と職員が一対一で送受信したメールは組織共用性を欠き公文書でないことを理由に、不存在による非公開決定としました。そのため、私が原告となって、その非公開決定の取消しと公文書の公開決定の義務付けを求めて本訴訟を提起しました。

 訴訟において、大阪市は、一対一でやり取りをされたメールは、電話や口頭と同レベルの一過性の意思伝達をメールという手段で行ったに過ぎず、原則として、組織として伝達すべき必要の無い連絡事項を個人的に伝達する際に行われるものであり、その内容は、電話や口頭で伝えるものと変わらないなどと主張していました。これに対し、見張り番弁護団は、一対一のメールであったとしても、組織内の意思伝達がなされていることはあり、一対一であるからといって組織共用性がないとは言えないし、もしもそのような基準で判断するとすれば、本来、公開すべきメールも容易に組織共用性がないことを偽装できるので不合理である等と反論していました。

この点について、裁判所は、①大阪市長は、その職責に鑑み、確定した職務命令を発したり、逆に職務命令に基づく報告を受けたりするなど、職員との間で、大阪市の業務と密接に関連し継続利用が予定される情報を頻繁にやりとりすることが見込まれること、②大阪市の業務の中には緊急性及び迅速性が要請されるものがあり、そのような場合には、書面の受渡しに代えて電子メールの送受信により情報伝達を行うことも多いと考えられること、③上記①の情報は、その性質に照らし、口頭のみでやり取りされることが考え難いこと等の事情を併せ考えれば、大阪市長が一対一メールを利用して職員に確定した職務命令を発したこと、及び職員から職務命令に基づく報告を受けたことがあったものと推認され、これらの電子メールは、その作成、利用及び保存の状況に照らし、業務上必要なものとして、利用又は保存されている状態にあるというべきであるから、『組織的に用いるもの』に該当すると解すべきと判断し、市に対し非公開決定の取消しを命じました。もっとも、一対一メールが公文書であったとしても、その公文書に非公開情報が含まれている可能性は否定できないとして、公文書の公開決定の義務付けについては、原告の請求に理由がないとして棄却しました。

 大阪市の主張を前提にすれば、一対一のメールであれば、どのようなメールであっても公文書に該当しないこととなり、行政にとって都合の悪いメールは全て隠蔽することができてしまいますので、一対一メールが公文書であると判断した裁判所の判断は妥当であり、また情報公開実務においても重要な意義があると思います。

なお一対一メール訴訟は、弁護団の先生のご協力により勝訴することができました。大阪市は控訴しましたので、控訴審でも今回の判断が維持されるように頑張りたいと思います。

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