民主法律時報

堺市シャープ住民訴訟・判決のご報告

弁護士 藤井 恭子

1 大阪府、堺市の住民による、公金支出のあり方を問う住民訴訟

平成20年から続く世界的大不況によって庶民の生活が逼迫する中、大阪府と堺市が、堺市堺浜に大企業シャープを誘致するにあたって、多額の公金を支出する決定をした。
大阪府はシャープ及び関連企業全体に対し、合計244億円もの補助金を支出し、堺市は約50億円もの減税措置を10年間行うというものである。

この点に怒りと疑問を持った堺市と大阪府の住民合計約160名が「シャープ立地への公金の支出をただす会」を組織し、平成21年7月、大阪府及び堺市に対して住民訴訟を提起した。
それから約7年間の訴訟活動を経て、本訴は平成28年9月8日に判決を迎えた。
以下、本訴訟の意義と判決の内容をご報告させていただく。

2 本訴訟の経過

大阪府と堺市のシャープに対する公金支出は、自治体による大企業誘致合戦の最中に決定した。
大阪府が打ち出した、一企業に対する補助金上限150億円という額は、当時、全国でも破格の金額であった。
かかる大規模な公金支出には、それに伴う高い公益性が求められるべきである。
これについて大阪府・堺市は、「多額の公金支出をしてシャープを誘致することが、住民に『経済波及効果』を及ぼし、雇用創出や経済の活性化などの利益がもたらされる」と主張してきた。

しかし、7年間の訴訟のなかで、大阪府・堺市は誘致による『経済波及効果』の内容を具体的に説明することができず、『経済波及効果』は絵に描いた餅であることが明らかとなったのである。
結局、シャープに対する公金支出には、公益性が全くないことが明らかになった。
しかも、この数年の間に、シャープは見るも無惨に凋落し、多額の公金をつぎ込んで誘致したシャープ工場も、いまや台湾資本の企業・鴻海が実質的な所有者となっている。
そうであるにもかかわらず、堺市は漫然と税の減免措置を続けており、税の減免による利益は堺市住民に還元されることなく、海外へ流出する事態となってしまっている。

かかる現状は、決して結果論ではない。住民の声に耳を傾けることなく強行された企業誘致には、当初から何らの公益性もなかったことが、この間の経過で、明らかになっていったのである。

3 本訴訟の意義

原告・弁護団は、公金支出の公益性だけにとどまらず、まちづくりのあり方や税金の使い方そのものを行政に問いかけるという大きな意義をもって、本訴に取り組んできた。
その結果、公金支出だけでなく、大阪府および堺市の過度に大企業を重視する施策・姿勢が、次々と明らかになっていった。たとえば、堺市がシャープ工場建設土地の大規模なインフラ整備を行っていたことや、開発許可手続を省略する便宜を図っていたことなどが判明した。

このような施策を進める一方で、いかに住民の暮らしを軽視する行政が行われてきたのかという点を、原告・弁護団は問題視し、訴訟の中で強調して訴えてきた。
自治体は、大企業誘致頼みの街作りが、いかに住民にとって大きなリスクを伴う施策であるかを十分認識したうえで、住民にとってもっとも望ましい街作りとは何なのか、改めて考えるべきである。

4 判決の内容

本年9月8日、シャープ住民訴訟に対する第一審判決が出された。
結果は、原告の主張は全て認められず、全面敗訴であった。
裁判所は、大阪府・堺市が主張する「誘致による経済波及効果」を鵜呑みにして主張のまま認定し、補助金や減税が多額に過ぎることや、利益が住民に還元されず、海外資本に渡る結果となっていることを問題視する住民の主張は、無視された。

住民の訴えに耳を傾けない不当判決であり、原告住民は控訴する予定である。
弁護団は原告住民と一体となって、自治体によるまちづくりを問うたたかいを続けていく所存である。
今後も、引き続きご支援をよろしくお願い致します。

(弁護団は、辻公雄、平山正和、辰巳創史、牧亮太、藤井恭子、他7名)

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