弁護士 西川 大史
1 事案の概要
原告の男性は、北河内合同労組・大東支部の組合員です。ナイロン樹脂製品の製造などをおこなうエンプラ株式会社(京都府久世郡久御山町)で、エクストルーザーという機械を用いて、廃品ナイロンからペレットを製造する業務を担当していました。
エクストルーザーは、廃品ナイロンを細かく砕くためにスクリューがあるなど危険な構造であるにもかかわらず、ふたや囲いもなく、安全装置もありませんでした。また、会社は、原告に対して、機械の使用方法やその他安全教育についての指導をすることもありませんでした。しかも、会社の工場の床面は油まみれで、製造品であるペレットも散乱しており、非常に滑りやすい状態でもありました。
原告は、2011年1月20日、いつものように作業をおこなっていたところ、工場の床面で足を滑らせて、エクストルーザーに左手を巻き込まれ、左手指5本を切断するという重傷を負いました。組合では、団体交渉などによる解決を目指してきました。しかし、会社は、責任を認めるどころか、原告の自己責任だなどと強く非難をするため、原告は、会社の安全配慮義務違反と代表取締役社長の責任を問うべく、2014年3月26日に、京都地方裁判所に提訴しました。
2 原告の請求を全面的に認めた判決
2016年8月31日、京都地方裁判所(石村智裁判官)は、原告の請求をほぼ全面的に認めて、エンプラ株式会社の安全配慮義務違反を認めるとともに、同社の代表取締役の責任をも認める勝利判決を言い渡しました。
判決は、「容易に重大な傷害結果が生じ得るような危険な構造を有する本件機械の作業に従事させていたのであるから、その作業の従事中に、原告が本件機械から生じ得べき危険に巻き込まれて負傷することのないようその生命身体の安全を確保すべく種々の措置を講ずるなど安全に配慮する義務を負っていた」にもかかわらず、会社では危険回避の措置が取られておらず、また、安全管理もなされることなく、原告に漫然と作業を強いてきたとして、会社の安全配慮義務違反と社長の責任を認めました。
さらに、会社側からは、事故の発生について、原告の過失が多大であるため、過失相殺がなされるべきとの主張もなされましたが、判決は、原告が本件機械による作業方法を誤ったり、危険な態様で作業をしていないとして、過失相殺を認めるべきではないとも判示しました。
3 原告の思いが裁判官の心を動かした
本件では、会社が安全教育や衛生状態の保持など、安全配慮義務を怠っていたことは明らかな事件でしたので、本判決は至極妥当なものであります。
それに加えて、本件では、裁判官が、原告の意見陳述、尋問での一つひとつの言葉に頷きながら聞くなど正面から向き合い、他方で、会社社長の不合理で曖昧な供述に対しては厳しく追及しており、それが判決に垣間見られます。判決は、会社側の不合理な弁解(たとえば、大怪我をするような機械ではない、機械にふたや囲いを設けると生産性を損なう、工場内に滑り等の危険はなかった、安全教育は十分に尽くされていたなど)について、会社の主張を排斥するとともに、会社の安全配慮義務違反を原告に責任転嫁するに等しいとまで述べました。会社の不当な安全軽視や責任転嫁から、重傷を負った原告を救済する正義に溢れた判決です。
原告の思いや、会社の不誠実さが、裁判官の心を動かしたに違いありません。
4 さいごに
残念ながら、会社側は控訴しましたので、闘いの舞台は大阪高裁に移ります。控訴審でも、理論的な主張立証のみならず、裁判官のハートを掴むことができるよう尽力していきたいと思っています。
(代理人は楠晋一弁護士と当職)