民主法律時報

泉佐野市職労事件 4度目の府労委勝利命令

弁護士 半田 みどり

1 はじめに
泉佐野市職労・同現業支部が泉佐野市を被申立人として府労委に行っていた不当労働行為救済申立において、平成28年6月9日、団交拒否と支配介入が認められ勝利命令がなされた。
現市長は、一貫した労使交渉軽視・無視、組合敵視の姿勢で不当労働行為を繰り返している。救済命令申立は本件が6件目で、全て勝利命令を得た(その後の経過は後述)。

2 本件の概要

(1)もともと市では、前市長時代に、平成21年から39年までの超長期計画で財政健全化計画が策定されていた。しかし、平成23年4月に就任した現市長は、任期中に健全化団体を脱却するとの公約のもと、労使協議なきまま25年3月までの給与8%カットを強行し、さらに労使合意なく 年3月まで延長した。

(2)市は、平成25年度決算で、早期健全化団体を脱却した。これで8%カットは根拠を失ったが、平成26年予算においても見直されなかった。そして、平成26年11月11日、市は、市職労に対し、給与削減をさらに延長し、平成27年4月から5年間、4~9%を削減するとの条例案を12月議会に提出したいとして、団交を申し入れた(中期財政計画に基づく条例案)。これが本件の事案である。

(3)組合は、同月13日、予備交渉で議題・時間等を取り決めること、一方的な議会上程を行わないことを求める要求書を提出し、中期財政計画案策定に至った経緯や、給与削減の必要性及び相当性について回答するよう、市に団交を申し入れた。
しかし、同月17日、市は、中期財政計画案の策定は管理運営事項として組合申入の団交を拒否した。一方で、市は、中期財政計画案について説明会を開催した上で、説明会開催後に市申入団交の第1回交渉、同時期に行われている組合申入の確定交渉終了後に引き続いて第2回・第3回の団交を行うとした。
短期間で3回限定、深夜に及ぶ強行日程である。組合は再考を求めたが、市は応じなかった。

3 団体交渉の経過(命令が認めた事実)

(1)第1回団交においては、市は、健全化団体再転落回避のため10億円の基金残高確保が必要としつつ、その必要性の根拠も示さず、給与カットをしなければ再転落するという試算の具体的根拠も示さなかった。また、組合が求めた、給与削減の有無による人件費の状況の違いを示すデータも示さず、10億円繰上償還している年度に収支残高が10億円減少していない理由について、組合からの単純な質問にも回答できなかった。また、人件費削減が10億円の基金残高を確保するための最後の手立てと言いつつ、削減の理由についても抽象的な説明にとどまった。

(2)第2回団交においても、市は、組合が求める市の試算の根拠資料を示さず、給与カットによって基金残高を10億円確保する必要性及び健全化団体再転落の可能性についても、第1回と同様の主張を繰り返して抽象的な回答をするにとどまり、具体的根拠の説明を回避した。

(3)第3回団交には市長が出席したが、やはり組合が求める根拠資料を提示せず、人件費削減の必要性について抽象的かつ曖昧な説明をするにとどまった。にもかかわらず、組合側が理解しない、市の説明責任は果たした、として交渉を打ち切り、12月議会に条例案を上程した。

4 府労委の判断

(1)団交拒否
命令は、市は、短期間の内に設定された市申入団交において、組合らに対する十分な説明及び資料の呈示を行わず、組合らに市の提案内容について検討の機会を与えずに、一方的に協議を打ち切っており、市申入団交における市の対応は不誠実と言わざるを得ない、とした。市は、議会上程を前提としていなかったと強弁したが、この主張も排斥された。そして、組合申入団交が市申入団交によって実質的に代替されたと言えないとして、正当な理由のない団交拒否を認めた。

(2)支配介入
命令は、市の不誠実な対応は、組合らの存在を軽視したもので、組合らに対する支配介入と認めた。先行事件でも、団交拒否とともに支配介入がストレートに認められている。市長がかつて露骨な組合攻撃をブログ等で行ったことや、組合員から、「労使交渉になってない。組合で闘っても意味がない」と言う声が出て、退職する職員も出てきたことなど、事実をしっかり訴えたことが、単なる団交拒否だけでなく支配介入も認めさせたと思う。

5 その後の経過

市は、先行事件では3件は再審査申立、2件(チェック・オフ事件)は取消訴訟を提起していた。今年5月 日、大阪地裁は、地公法適用職員のチェック・オフに関する救済については労組法上の不当労働行為制度による救済を求めることができないとして命令を一部取り消した(双方控訴)。
本件も、市は取消訴訟を提起する議案を可決した。しかし、与党議員が議案に賛成しつつ、訴訟費用に多額の税金を投じるのは好ましくない、労使紛争が長引かないことを強く求める、と意見している。チェック・オフ事件は、不当労働行為の部分では市側の完敗である。本件の取消訴訟でも、不当労働行為を断罪し、混合組合の救済の論点でも戦っていかなければならない。

(常任弁護団は、大江洋一、増田尚、半田みどり、谷真介)

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