弁護士 高橋 早苗
1 4年半にわたる裁判、ついに判決を迎える
2016年1月22日、建設アスベスト訴訟の大阪地裁判決がありました。建設アスベスト訴訟は、建設作業従事者が石綿建材を建築現場で直接または間接に扱ったことにより、中皮腫や肺がん、石綿肺などに罹患したことについて、国と建材メーカーに対し損害の賠償を求めるものです。
本判決は、東京地裁、福岡地裁に次いで、国の責任を認め、その内容も一歩前進したといえるものでした。しかし、建設作業従事者の多くを占める一人親方を救済せず、石綿建材を大量に生産し販売してきた被告企業の責任は認めないといった点で大きな問題を残すものでした。こうした点や責任期間の問題で、国の責任との関係でも、被害者19名のうち、7名については請求が認められない結論となっています。
2 三度国の責任を認める
本判決が国の違法を認めた点は次の3点です。① 昭和50年~平成18年の間、防じんマスクを労働者に着用させるよう事業主に義務づけなかった点、② 昭和50 年~平成18年の間、石綿建材に警告表示を行うよう製造業者に義務付けなかった点、現場に警告表示の掲示を行うよう事業主に義務付けなかった点、③ 平成7年~平成18年の間、青石綿、茶石綿だけでなく、白石綿の製造等禁止をしなかった点です。
このうち、①及び②の点については、国の違法期間につき大阪地裁に先行して出された東京地裁が昭和56年から、福岡地裁が昭和50年から平成7年としていたところ、大阪地裁は昭和50年から平成18年と、32年間という長期間にわたる国の違法を認めました。また、③の平成7年のクリソタイル(白石綿)の製造禁止については、主張していたもののこれまでの先行する判決では認められていなかった点を新たに認めたものでした。
3 判決の不当性①――「一人親方」の救済はせず
このように、国の責任を一歩推し進めた点では評価しうるものの、「一人親方」については労働関係法規によっても、建築基準法によっても保護の対象ではないとして、国の責任を認めませんでした。建築現場においては、労働者であるか一人親方であるかで行う作業の内容は何ら変わらず、また誰が労働者であるか一人親方であるかなども全く分からない状態で作業に従事しています。今回、労働者性を多少緩やかに判断したために、労働者と認められた原告もいますが、逆に言えば、そのようなさじ加減ひとつで、一人親方にも労働者にもなり得るような曖昧な違いしか労働者と一人親方との間にはないのです。
全く同じように働いてきて、同じように苦しんでいる一人親方を救済しない理由はありません。国の責任が問われる中、労働関係法規、建築基準法という国が作った法律の保護対象じゃないから、という理由だけで一人親方が救われないというのはあまりにも国に都合よく国の責任を免れさせる判決です。
4 判決の不当性②――企業責任の否定
また、企業については今回一人一人の原告について、主に取り扱った建材や企業を可能な限り分析し、各原告につき主要な企業を特定するなどの作業を行ったものの、本判決はそのような主張にもまともに向き合うことなく、十分な検討をしないまま、結論ありきで企業の責任を否定しました。被告企業らは、石綿の危険性を認識しながら、企業の利益のために現実に石綿建材を流通させ、建設作業従事者の手元まで行き渡らせました。企業の製造・販売という加害行為があったからこそこれだけ広く石綿建材が出回り建築物に使用されたのです。現実の被害が生じたことについて企業の責任は重大であり、その責任を否定する本判決は不当としか言いようがありません。この点、大阪地裁判決の1週間後の1月29日に出された京都地裁判決では、企業の責任を認めました。京都も大阪も、建設現場の実態や被害の程度には何の変わりもありません。大阪地裁判決が不当判決だということは京都地裁判決からも明らかです。
5 石綿被害にあった全ての建設作業従事者の救済を目指して
建設アスベスト大阪訴訟は2011年7月に原告17名(本人原告4名、遺族原告11名)、被害者10名で提訴し、その後順次追加提訴を行い、判決時には原告33名(本人原告6名、遺族原告27名)、被害者19名となっていました。提訴から判決までの4年半の間に、4名の本人原告の方々が亡くなりました。当初は期日にも集会等にも、石綿による疾患を患いながらも意欲的に参加されていた方々が、その後家から出られなくなり、あるいは病院に入院し最期を迎えてしまったことは、本当にやるせなく悲しいものでした。このような現実を目の当たりにし、よりいっそう石綿建材の使用を推進し、放置してきた国と企業に対する怒りが込み上げてきました。
本判決については、前述した点をはじめ、不当な判断がいくつもあります。建築作業従事者の石綿被害についての国の責任、そして企業の責任を正しく認め、原告、そして全ての石綿被害にあった建設作業従事者が救われる判決を勝ち取れるよう、原告団、弁護団とも控訴審でも力を尽くして戦っていきたいと思います。