弁護士 高 橋 徹
1 はじめに
自交総連大阪地方連合会なみはや交通労働組合を結成した組合員全員に対する懲戒解雇事件について、大阪地方裁判所で勝訴判決を得ましたので、報告します。
なお、なみはや交通は、門真市を拠点とし、車両台数44台、乗務員約70名を擁する新興のタクシー会社です。社長一族が経営する同族会社で、これまで社内に労働組合はありませんでした。本件判決後には、オアシスという会社に営業譲渡をし、組合員の雇用を奪うという態度を貫いています。
2 事実経過
会社側は、2013年夏頃から、種々の労働条件の切り下げを行い、2014年1月には、燃料費の高騰を理由に、賃金カットを強行しました。
この会社側の仕打ちに業を煮やした乗務員7名は、2014年2月、自交総連傘下の労働組合を結成し、この賃金カットの撤回を求め、団体交渉を要求しました。
2014年2月下旬に第1回目の団体交渉が行われたのですが、会社側からは、一乗務員から急遽、顧問や労務担当に抜擢された人物が出席し、組合否認の発言を繰り返しました(録音あり)。また、その翌日には、この「顧問」が組合の委員長に対し、「委員長が反目やったら、うちのSが動いたら、警察、右翼、暴力団、日本の行政機関、全部手を回せますわ。せやから、もしあんたらが徹底的にやるでというなら、明日から公安つきますわ」などと、脅迫する始末でした(これも録音あり)。
当然に、組合と会社側の話し合いは平行線に終始し、3月中旬に第2回目の団体交渉が予定されましたが、その前日に、組合員7名全員を懲戒解雇にする旨の解雇通知が発せられました。しかし、この解雇通知には、どのような理由で懲戒解雇としたのか、その具体的な理由は、一切記載されていませんでした。先の団体交渉の経過からも、労働組合を放逐しようとした不当労働行為であることは、明白でした。
3 地位保全等仮処分命令申立事件
組合員7名は、懲戒解雇の無効を主張し、従業員の地位保全と、賃金の仮払いを求めて、大阪地方裁判所に仮処分事件の申立をしました(大阪地方裁判所平成26年(ヨ)第10030号)。担当は、第5民事部の菊井一夫裁判官です。
2014年4月8日に申立をしましたが、合計7回の審尋期日を経て、8月20日に賃金の仮払いを命じる仮処分決定が出ました。決定では、本件懲戒解雇について、「本件組合を消滅させるために行われたことが強く推認される」と断じています。ちなみに、地位保全申立は却下、賃金の仮払いは第1審判決まで、支払額は解雇前賃金の約8割の水準に限定されました。
本件は、労働組合を嫌悪した(不当労働行為)、違法な懲戒解雇であることが明らかな事案であり、会社側も大した主張をしていなかったにもかかわらず、夏季休廷前の多忙さからか、決定が先送りとなり、その分仮払いの開始時期が遅れたことに不満が残りました。
4 従業員地位確認等請求事件(本訴)
その後、起訴命令を受けて、2014年9月7日、組合側が本訴を提起しました(大阪地方裁判所平成26年(ワ)第8787号)。本訴では、各組合員の従業員地位確認、賃金の支払い、違法な懲戒解雇(不当労働行為であり、不法行為)に対する無形損害の賠償と、組合自身の無形損害の賠償を請求しました。無形損害の賠償請求については、社長個人も被告に加えました(連帯責任)。担当は、第5民事部(労働部)の笹井三佳裁判官です。
和解協議が決裂したことから、尋問を経て、2015年5月28日、組合側の言い分を全面的に認める勝訴判決を得ました。従業員地位確認、賃金支払いに加え、各組合員の無形損害として各6万円の賠償、組合の無形損害として55万円の賠償を命じる内容でした(無形損害の賠償については、会社と社長の連帯責任)。判決書は、詳細で、よく検討がなされており、本件懲戒解雇が不当労働行為に該当する違法な行為であるとして、不法行為に基づく損害賠償責任を負うと断じています。
本件では、懲戒解雇の無効については当然の結論であり、特に導き出すべき教訓もないのですが、社長の行った懲戒解雇について、会社法350条を適用して連帯責任を認めた点は、なるほどと感心しました。
5 さいごに
以上のとおり、なみはや交通事件は、裁判闘争としては、完全勝利の判決でしたが、冒頭で記載したとおり、会社側は、他の会社にタクシー営業のすべてを譲渡し(営業譲渡)、組合員の雇用を奪う方針を貫徹しています。今後は、この点に対するたたかいをどう組み立てて行くのかが課題です。
(弁護団は、藤木邦顕、横山精一、中筋利朗、高橋徹)