民主法律時報

吹田市職労現業評議会団交拒否(不誠実団交)事件――東京高裁でも勝利! 市の上告断念で7年越しで解決

弁護士 谷  真 介

1 事件の概要と経過

 吹田市では、前々市長の阪口市政時代の平成20年、トップダウンで市全体の人員削減をする計画が策定された。吹田市は、同計画に基づき、退職者不補充・非正規職員への置き換えを推進し、正規職員を段階的に減少させていった。一方で、平成  年、同  年には、吹田市職労(吹田市職労現業評議会)と吹田市との間で、市立中学校・小学校・幼稚園に配置される学校校務員(用務員)の各校あたりの配置人数に関し、あるべき配置人員に関する討議、交渉が重ねられ、一定人員の配置を約する労使協定(労働協約)が締結されていた。

 吹田市は、平成21年度以降、上記人員削減計画のもとで、労使協定を無視し、同協定の基準に満たない配置しかしなくなった。吹田市職労(現業評議会)は、協定通りの人員配置を求め、また人員配置減少に伴う労働条件への影響等に関しても当該部局である教育委員会と団体交渉を行ったが、トップダウンで決定した上記計画に基づいて行われていたため、教育委員会は同交渉の当事者能力を欠いており、全く前に進まなかった。そこで、平成  年6月、現業評議会は、人員削減計画の策定責任者である吹田市長に対し団体交渉を申し入れたが、市長は「教育委員会で対応すべき問題」として拒否した。つまり、現業評議会は、教育委員会と交渉しても「市(市長)が決めたから」と結論の説明しか受けられず、市長に申し入れても「教育委員会が説明すべき問題」として拒否されるという、「じゃあどうすればいいのか」という板挟み状態に陥ったのである。

 そこで、平成21年10月、現業評議会は大阪府労働委員会に対し、①吹田市が配置基準の協定を守らないのは支配介入、②吹田市長が交渉を拒否したことは団交拒否として、不当労働行為救済申立を行った。これが本事件である。

 平成23年8月、初審・大阪府労委では、①②も全て棄却する不当命令であった。組合は不屈の精神で中労委に再審査申立をし、巻き返した。すると中労委は、平成25年4月、②に関して逆転の救済命令(権限ある者の出席を義務づける旨の団交応諾命令)を出した(詳細は民主法律時報2013年6月号)。これに対し、維新の市長となっていた吹田市は、東京地裁に行政訴訟(取消訴訟)を提起した。

 しかし、平成26年11月、東京地裁で組合勝訴、そして今般、平成27年5月14日に東京高裁でも組合が勝利した。4月の市長選挙で維新の市長が敗退していた吹田市は上告を断念した。6年半以上もの闘いを経て、団交応諾を命ずる勝利命令を確定させたのである。

2 東京高裁の審理と判決

 東京高裁(第10民事部/大段亨裁判長)では、1回結審し、3か月後に判決言渡し期日が指定された。東京地裁判決が非常にすっきりとした事実認定、判断であったこともあり、組合・弁護団は、高裁でもまず大丈夫だろうと思っていたが、手を抜くことなく控訴理由書に反論し尽くし、結果、完全な組合(中労委)勝利の判決であった。

 現業評議会が市長に対し本件団交を申入れた前後に教育委員会が現業評議会に必要な説明や具体的な対応を行ったという吹田市の主張に対し、高裁判決は、教育委員会が行った説明会等を詳細に検討し、組合側が平成14年、15年協定の配置基準どおりに職員(学校校務員)が配置されないことで起こる様々な問題点について具体的に指摘したにもかかわらず、教育委員会は、市長部局の説明や結論を伝えるにとどまり、配置人数の削減に伴う労働条件等については抽象的に対応を回答するか、それ以降の検討や協議を約束するのみで、十分な説明や回答をしていなかった、と排斥した。

 また、組合側が団体交渉で求めていたのは平成14年協定通りの人員配置に尽きていた(それは管理運営事項そのものである)という吹田市の新たな主張に対しては、高裁判決は、組合側の交渉事項は、人員配置のみならず、人員配置の変更に伴う職務内容や職務範囲、職場環境の整備等の労働条件に関する事項についても含まれている、と的確に判断した。

 このように、高裁判決は、吹田市の主張をことごとく斥け、原判決を維持した。

 なお、東京地裁段階まで吹田市が争っていた混合組合の申立人適格の争点(なお、この論点については、大阪教育合同事件について、平成27年3月31日に最高裁の上告不受理で確定している)は、吹田市側が控訴審で控訴理由としなかったため判断されなかった。

3 最後に

 東京高裁において、本件の各論点において完全に決着が付いた。吹田市は行政訴訟提起の際に、最高裁まで争うための弁護士費用その他として600万円の予算を組み、議会の承認を得ていたが、本年4月の統一地方選で維新市長を破って当選した後藤市長は、上告断念の英断を下し、6年半以上闘ってきた本事件は終結した。

 今後は、組合と新市長との間で、充実した市政や住民サービスを実現するために必要な職員の配置や労働条件はどうあるべきかについて、中身のある議論、交渉を行うことのできる新たな労使関係が構築されることを期待したい。

(弁護団は、豊川義明、中西基、谷真介、喜田崇之)

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