弁護士 楠 晋 一
2015年3月30日、大阪地裁第5民事部の中垣内健治裁判長は、2012年2月に橋下市長が野村修也特別顧問らを使って行った思想調査アンケートが違憲・違法であるとして、被告大阪市に対して、原告59名全員に慰謝料と弁護士費用を支払うよう命じました。
判決は、アンケートの意図について、大阪市の労働組合が便宜供与を受けているにもかかわらず、市長選挙で対立候補であった平松邦夫前市長を支援する政治活動を行い、橋下市長の当選後も橋下市長の政策に反対する活動を行っていたことを問題視し、組合に対する便宜供与を廃止して、労働組合を「適正化」する政策をとり、このアンケートは「適正化」の一手段として利用しようと考えたものであると看破しました。そして、労働組合に対する一方的な便宜供与廃止は、労働組合の活動一般を弱体化させるものとして労働組合及びその組合員の労働基本権(憲法28条)を侵害するものと断じました。
橋下市長が、アンケートの違憲性を問題視されて以来言い続けた、大阪市から独立した中立な第三者チームが実施主体で大阪市は無関係という主張も、チームメンバーが労使関係条例案等の作成に中心的に関与していたことから、裁判所は、チームの独立性・中立性を明確に否定しました。
アンケートの実施についても、一部の労働組合(原告らの組合ではない)以外では違法行為が明らかになっていないにもかかわらず、大阪市や組合の内部調査を待たずして、大阪市のほぼ全職員を対象として、労使関係に関する網羅的な質問を職務命令をもって回答を義務付けなければならない必要性は乏しかったと結論付けました。
そして、アンケート実施にあたって市長が職員に発したメッセージは懲戒処分の威嚇力を背景に記名式で正確な回答を義務付けるものであったから、その内容が回答者の憲法上の権利を侵害しないよう細心の注意が払われる必要があったとともに、このメッセージが職員に組合活動への参加を委縮させる効果を有するものであったことからすれば、このメッセージとともにアンケートが実施されたことは手段としての相当性も欠くとしました。
個々の設問については、2つの設問が原告らのプライバシーを侵害し、3つの質問が原告らの労働基本権を侵害すると認定されました。しかし、原告らが強く求めていた、様々な質問をクロスして集計すれば、回答者の政治的思想や職場での人間関係が丸裸にされるので、アンケートが思想・良心の自由、消極的表現の自由、人格権を侵害するという主張については認められませんでした。非常に残念です。
裁判所は、「市長は、その地位に基づき、被告の職員に対し、職務命令を発出する権限を有しているが、いかなる内容の職務命令であっても発出できるものでないことはいうまでもなく、その発出に際し、職員に違法行為をさせたり、職員の権利を侵害することがないようにする職務上の注意義務を負っている」として、これに違反した市長の職務命令は国賠法上違法と結論付けました。この点は、ものがいえない雰囲気になっている職員を大いに勇気づけるものと評価できます。
裁判は舞台を控訴審へと移しますが、再び橋下市長の姿勢を許さない判決を勝ち取ることはもちろん、1審では認められなかった憲法違反についても認めさせることができるように努力いたします。引き続きご支援をよろしくお願いします。
(常任弁護団は、井関和彦団長、西晃事務局長、長岡満寿恵、杉島幸生、河村学、高橋徹、増田尚、大前治、遠地靖志、中村里香、宮本亜紀と当職)