民主法律時報

大生連・生健会に対する一連の弾圧と対応について(後編)

弁護士 須 井 康 雄

1 はじめに
 昨年、淀川生活と健康を守る会(淀川生健会)に元会員3名の生活保護費の不正受給を口実として大阪府警の捜索が入り、その関係で、全大阪生活と健康を守る会連合会(大生連)、全国生活と健康を守る会連合会(全生連)まで捜索が及び、資料が差し押さえられる事態となった。事件としては3つあり、それぞれ発生順に第一事件、第二事件、第三事件と呼ぶ。
 本稿では、かかる捜索差押の問題点について報告する。なお、経緯と対応については、本誌2014年2月号に前編として報告している。

2 本件捜索差押の問題点
(1)令状発付段階の問題点
 第一に、被疑事実と捜索差押対象との間に関連性が認められないことである。元会員の不正受給に全生連、大生連、淀川生健会がかかわったことはない。淀川生健会と被疑事実との関係は、淀川生健会が被疑者の加入していた団体であること、淀川生健会の担当者が生活保護の申請に同行していたということにすぎない。大生連や全生連は被疑者との接触すらなく、より間接的で希薄かつ迂遠な関係しかない。被疑事実と捜索差押対象との間に関連性はなく、令状発付は違法であるというべきである。
 第二に、令状発付の必要性も認められないことである。第一事件で、淀川生健会に対して捜索差押が行われたが、淀川生健会の関与を裏付ける証拠など一切出ていない。にもかかわらず、大阪府警が第二事件、第三事件を利用して淀川生健会への捜索を繰り返すとともに、大生連、全生連にまで捜索の手を伸ばしたのは、探索的な捜索といわざるをえない。第一事件の結果からして、令状発付の必要性もなかったといえる。
 第三に、差押対象物の特定を欠くことである。令状の内容を正確に記録することができた第三事件の令状における差押対象物の記載は、「本件に関する」「(全生連、大生連、淀川生健会に関する)活動方針、規約、規則、会員名簿、住所録、機関紙誌、名刺、会員証、写真、その他組織実態会費運用状況及び生活保護に関する取り組みなど明らかにする文書類及び物件」というものであった。これでは、全生連、大生連、淀川生健会に存在するすべての文書類が差押対象になってしまう。しいていえば「本件に関する」という記載がいくらかの限定を行うものであるが、令状には、被疑事実の時期や態様といった具体的内容が記載されておらず、また、捜索に当たった警察官も具体的内容を明らかにしなかったため、「本件に関し」と言われても、一体、どのように捜索差押範囲が限定されるのか全く不明であった。このような令状は、差押対象物の明示を求めた憲法33条に違反するというべきである。
 第四に、第三者方捜索の場合に要求される加重要件についての配慮が全く見られないことである。第三事件の令状には、差押対象物として、生健会等に存在しないことが明らかな被疑者のタイムカードなどが記載されていた。今回、初めて知ったのであるが、元裁判官が書いた本によると、複数の捜索個所に対する令状について、同一の別紙を用いる運用があるとのことであった。このため、大生連や全生連に対する捜索差押令状におよそ存在しないと思われる物が差押対象物として記載されていたのである。しかし、刑事訴訟法102条2項等は、第三者のプライバシー保護の観点から、被疑者方以外の場所を捜索する場合、押収すべき物の存在を認めるに足りる状況を必要としている。淀川生健会等におよそ存在しないと思われる物を差押え対象物として記載した令状は、この規定に違反する。

(2)令状執行段階の問題点
 令状に記載された差押対象物に形式的に該当しても、関連性、必要性がなければ差し押さえることは許されない。本件では、令状を執行する段階でも、関連性・必要性がないことが明らかな文書が差し押さえられた。第二事件の捜索では、一斉審査請求に関する書類が差し押さえられているが、不正受給と何の関係もない。第三事件では、第二事件についての抗議声明等が淀川生健会、全生連で差し押さえられた。しかし、第二事件の被疑者と第三事件の被疑者は別であり、両事件に何の関係もない。
 大生連で第三事件に関し差し押さえられた大会決定集は、第二事件で差し押さえられたものの、大阪府警が準抗告を受けるやいなや、すぐに不要になったとして返還してきたものであった。差押の必要がなかったことは明らかである。
 このような差押えを許せば、会員の中から新たな被疑者が出るたびに、大阪府警は、手元に写しがあるはずの同じ資料を求めて繰り返し令状を請求し、生健会に踏み込んでくることが可能になる。また、捜索差押えの都度、マスコミ報道を通じて、あたかも淀川生健会や大生連が不正に関与していたかのような誤った印象を世間に流布させることが可能になる。

(3)準抗告手続における問題点
 第一に、捜査段階では令状の閲覧謄写が認められないということである。弁護団は令状等の閲覧謄写を要求したが準抗告審の担当裁判官はこれを拒否した。憲法 条の令状主義は事後に令状の適否を争う権利をも保障していると解される。にもかかわらず、令状の正確な記載内容を確認できないというのは、不当な捜索差押を受けた者が令状の記載に基づき的確に違法性を主張する手段を奪うものである。
 第二に、令状発付の処分については捜索終了により、また、令状執行の処分については差押物の還付により申立の利益がなくなるとされている点である。令状を準備していることは、通常秘密にされる。よって、捜索を受ける者は、令状が出たことを捜索時に初めて知る。しかし、捜索が終わると、令状発付を争えないことになる。令状の執行についても、今回、大阪府警が準抗告申立後ただちに差押物を返還しに来たことからも明らかなとおり、差し押さえた物を返せば、いとも簡単に、裁判所による事後の司法審査を免れることができることになる。
 第三に、問題のある令状を出した裁判官と同じ部(令状事務を担当する第10刑事部)の裁判官が1名で準抗告の手続を担当した点である。身体拘束処分に関する準抗告は、他の部の裁判官が合議で審理する。弁護団は、他の部の裁判官の合議による審理を求めたが、認められなかった。実際はどうであれ、同僚に配慮し公正な判断が行われなかったのではないかという疑念を生じさせる構成での審理は問題である。
 第四に、内容面として、準抗告審の裁判官は、第三事件について、被疑者の生活保護申請に淀川生健会の事務局長が同席するなどして関与していることなどから、差押対象物と被疑事実との関連性を認めた。しかし、違法な申請不受理が各地で相次ぐ現状を前提とすれば、生活困窮者が生活保護の申請にあたり、生活保護制度を良く知る者を同行することは、憲法 条の定める生存権の保障を実効化するために必要不可欠な権利の行使といえる。大阪府健康福祉部社会援護課長名の通達でも申請同行が認められている。申請に同行したことを理由として捜索差押を行うことは、同行申請を躊躇させ、ひいては、生活困窮者の生存権を保障する機会を奪う。

3 総括
 以上のように多くの問題点を含んでいたにもかかわらず、最高裁は中身に対する判断を行わず特別抗告を棄却した。人権の砦としての役割を放棄したに等しい。
 ただ、弁護団としても、第一事件の段階から適切な対応がとれなかったことは、大きな反省点である。被疑者がすでに生健会と接点のない元会員であり、事実関係が不明な面があったため、詳細についての情報発信を控えた面があった。
 各団体においても、限られた態勢の中で大変な面もあるであろうが、常日頃から会員とコミュニケーションをとり、団体の理念や方針を共有しておくことが、組織を強くし、ひいては、本件のような事態を招くことを防ぐことにつながるといえる。
 今回の一連の捜索差押に一分の理もないことは明白である。何度も集会を重ね、生健会が取り組んできた運動の正しさを会員があらためて確信する機会となった。その思いは、2014年2月4日に全国から780名以上が集まり、抗議集会とデモ行進という形で結実した。
 生活保護基準の引き下げに対する一斉審査請求の運動は、1万人以上が参加した。自己責任論が跋扈し、労働条件の緩和と福祉切下げが推し進められる今日、生健会は、生活困窮者の権利を守るため、かつてないほどの大きな役割を果たしている。そのような生健会に対してなされた今回の一連の捜索差押は決して生健会だけの問題ではない。暮らしと平和を守るために日々活動する労働組合などの諸団体に対して、いつ同じ攻撃が加えられるかもしれない。日々の運動の正しさに確信を持ち、不当な弾圧を押し返す力に変えていくことが必要である。

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