民主法律時報

北港観光バス事件――大阪高裁も書記長の自然退職扱いを無効と判断

弁護士 西 川 大 史

1 はじめに
 建交労北港観光バス分会の安田博之書記長が、北港観光バスに対して地位確認等を求めていた裁判の控訴審で、大阪高裁(小松一雄裁判長)は4月23日、会社側の控訴を棄却し、安田書記長に対する自然退職扱いを無効との判決を言い渡しました。

2 事案の概要
 安田書記長は、2010年9月、通勤途中に交通事故被害に遭い負傷し、事故翌日から会社を欠勤したところ、会社は、「ゆっくり治るまで休んでもらって良い」と述べたので、安田書記長は治療に専念していました。会社からの休職命令はありませんでした。ところが、2011年2月2日、安田書記長が会社に連絡したところ、会社は、安田書記長に対して、休職期間が満了しており、復帰の見込みがないため退職にするとの通告をしたのでした。
 北港観光バスでは、建交労の組合員が賃金制度の改定に反対するなどの組合活動を行ったことを強く嫌悪し、分会長が雇止めされ(雇止め無効との判決が大阪地裁で確定)、副分会長の配車を大幅に減少する(大阪地裁は配車減少が違法との判決を言い渡し、現在控訴審が係属中)などの嫌がらせが続いており、安田書記長に対する自然退職扱いも組合嫌悪に基づく嫌がらせの一環でした。

3 大阪地裁判決
 大阪地裁(田中邦治裁判官)は、2013年1月18日、「使用者が、休職期間満了により労働者を退職扱いとするためには、労働者に就業規則上の休職事由が存在すること、使用者が休職命令を発したこと及び休職期間が満了したことが必要であり、これらの要件を満たす場合に、労働者が休職期間満了による退職の効果を否定するためには、休職期間満了の時点で就労が可能であったことを立証する必要がある」と述べたうえで、会社から安田書記長に対して休職を命じた事実は認められず、安田書記長が自然退職扱いとされた2011年2月2日時点で復職が可能だったとして、自然退職扱いが無効であると判断しました。会社側の不合理な主張を排斥した勝利判決であり、会社はこれを不服として控訴しました。
 もっとも、大阪地裁判決は、会社が安田書記長に対して自然退職扱いとしたのは、組合に対する嫌悪感情が主たる理由ではないとして、自然退職扱いが不法行為であることは認めなかったため、原告側も附帯控訴しました。

4 大阪高裁判決
 会社側は、高裁においても従前の主張を繰り返すばかりにすぎず、大阪高裁も、地裁判決と同様に、安田書記長に対する休職命令はなく、自然退職扱いとされた2011年2月2日時点で復職が可能だったとして、会社側の控訴を棄却しました。
 他方で、組合側では、会社がこれまでに建交労の組合員に対してありとあらゆる嫌がらせを繰り返してきたことなど、自然退職扱いは安田書記長及び労働組合嫌悪であることは明らかであると詳細に主張をしました。しかし、大阪高裁は、「自然退職扱いしたことにつき、法律的、事実的な根拠を欠くことが明らかとまではいえない」、「組合活動に対する嫌悪によるものと認めることは困難である」として、自然退職扱いが不法行為であるとは認めませんでした。しかし、休職命令が発せられていないにもかかわらず自然退職扱いとすることは法律的、事実的な根拠を欠くことは明らかであり、それは判決も認めたところでした。また、分会長の雇止めや副分会長に対する配車差別なども併せて検討すれば、安田書記長に対する自然退職扱いは組合嫌悪以外に考えられません。それにもかかわらず、自然退職扱いの不法行為性を認めなかったことは極めて遺憾であります。

5 さいごに
 会社及び組合双方ともに大阪高裁判決に対して上告をしなかったため、判決は確定しました。今後は、安田書記長の復職により、北港観光バスにおける正常な労使関係の回復を目指しての職場での闘いが始まります。
北港観光バス事件では、街宣活動の問題や組合員個人の裁判など、多大なご支援をいただき、ありがとうございました。

(弁護団は、梅田章二、杉島幸生、原啓一郎、吉岡孝太郎各弁護士と当職です。)

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