弁護士 下迫田 浩 司
1 仕事が見つからない。所持金数百円。それなのに……
朝ごはんは、10円でたくさん買えるパンの耳だけ。昼と夜は100円ショップの小麦粉とキャベツだけのお好み焼き。風呂に入れず水のシャワー。風邪をひいても、病院代も薬代もない。派遣切りに遭ってから、3日に1回はハローワークに通って仕事を探したし、求人広告にも応募したけれども、中学卒で自動車運転免許もないので、就職が決まらない。ついに所持金が数百円になってしまった。……このような状況にもかかわらず、岸和田市は、「もっと頑張れば、仕事が見つかるはずだ。だから生活保護は受けさせない。」と、生活保護申請を却下しました。
まさに「仕事が見つからなければ、餓死するしかない。」と言われたようなものです。この岸和田市の却下処分に対して、いくらなんでもこれはおかしいとして、2009年11月10日に大阪地方裁判所に訴えを提起したのが、岸和田生活保護訴訟です。「裁判嫌い」を公言していた大生連の大口耕吉朗事務局長(現会長)も、「これは裁判しかない!」と立ち上がりました。
2 大阪地裁で完全勝利判決!
ほぼまる4年の審理の末、2013年10月31日、大阪地方裁判所第7民事部(裁判長裁判官田中健治、裁判官尾河吉久、裁判官木村朱子)は、生活保護却下処分を取り消し、慰謝料等の損害賠償68万3709円の支払を岸和田市に対して命じる判決をしました。
判決は、生活保護法4条1項の稼働能力活用要件につき、①稼働能力があるか否か、②その具体的な稼働能力を前提として、その能力を活用する意思があるか否か、③実際に稼働能力を活用する就労の場を得ることができるか否か、によって判断するという従来の枠組みを踏襲しながらも、各要素を見ていく際、一般人を基準にするのではなく、申請者の年齢・健康状態・生活歴・学歴・職歴・資格・困窮の程度などを勘案して、申請者個人を基準に判断することを明言した点が画期的です。
また、原告が最初に生活保護の窓口に行ったとき申請書を書かせてもらえずにカウンター越しに追い返されたことについて、判決は、「被告職員が原告夫婦の保護の開始申請の意思の有無を把握するために適切な聞き取り等を行っていれば、原告は保護の開始申請をすることができたはずであって、かかる被告職員の対応は原告の申請権を侵害するものであると認められ、職務上求められる義務を怠った国家賠償法上違法なものであり、この点につき少なくとも過失があると認められる」として、国家賠償請求を認めた点も素晴らしいです。
3 岸和田市が控訴せず、確定!
判決以来、連日控訴しないように要請行動を行っていたところ、控訴期限ギリギリの11月14日、岸和田市は控訴しない旨を発表しました。
野口聖岸和田市長は、「本市敗訴の判決があった生活保護却下処分取消等請求訴訟について、判決内容を精査し、厚生労働省等の関係機関と協議を行い、総合的に判断した結果、控訴を行わないこととしました。なお、今回の地裁判決を踏まえ、今後とも、生活保護制度の適正な事務執行に努めてまいります。」とコメントしました。
細かい話ですが、岸和田市が「控訴断念」という言葉を一度も使わなかったことは良いことだと思います。しばしば「控訴断念」という言葉が使われますが、「断念」というと、「本当は控訴したかったのに諸事情によりやむなく断念した」というニュアンスがあるからです。これに対し、「控訴を行わない」というと、「判決内容が適正妥当だと判断したので控訴しない」というニュアンスもあり、より適切だと思います。
いずれにせよ、岸和田市が控訴しなかったことにより、本判決は確定しました。この確定判決を今後の運動に生かしていきたいと思います。
(弁護団は、尾藤廣喜、半田みどり、普門大輔、谷真介、東奈央、下迫田浩司)