民主法律時報

津田電気計器・高年法継続雇用拒否事件――初の最高裁判決で勝訴確定!

弁護士 谷   真 介

 1 はじめに

 平成24年11月29日、津田電気計器継続雇用拒否事件において、最高裁第1小法廷(山浦善樹裁判長)は、会社の上告を受理した上で棄却し、原告労働者・岡田茂さん勝訴の判決を言い渡した。平成18年改正施行の高年法下の継続雇用拒否に対し、労働者が地位確認を求めて闘った事件において、初めての最高裁判決である。

 2 事案の概要と地裁・高裁判決

(1) 津田電気計器事件は、会社側が、高年齢者雇用安定法(高年法)による継続雇用制度(高年法9条1項2号)における選別基準(本年改正前の高年法9条2項)を設けた上で、長年労働組合(JMIU大阪地本津田電気計器支部)の役員を務めた岡田さんに対して恣意的査定を行い、継続雇用を拒否した。会社は、岡田さんと同年代の非組合員は全て継続雇用をしながら、岡田さんを含む組合員3名については全て継続雇用を拒否するという、継続雇用制度を利用した露骨な不当労働行為であった。岡田さんは物静かだが実直な人柄の技術者で、継続雇用された非組合員に全く見劣りせず、真面目にかつ正確に定年まで勤め上げた方であった。

(2) 平成18年改正高年法において65歳までの雇用確保規定が、従来の事業主の努力義務から法的義務とされた。これは年金(基礎部分)支給開始年齢の引き上げに伴い定年と年金支給開始との間にすきまが生じることを防ぎ、高年齢者の雇用を保障する趣旨であった。しかし、同法で義務付けられた雇用確保措置の一つである継続雇用制度は、希望者全員雇用が原則であるにもかかわらず、現実には、本年改正前の同法9条2項で例外的な制度であるはずの対象者選定制度の選定基準やその前提となる査定項目が抽象的・主観的に定められ、その運用(査定)が組合差別など恣意的になされ、不当な継続雇用拒否が相次ぎ、全国で多くの裁判が提起された。まさに継続雇用制度は差別の温床となっていたのである。厚労省によると全国で64000社が継続雇用基準を定める継続雇用制度を導入しており、継続雇用を求めたが基準に満たないとして雇用されなかった者は1年間に6000人いるという。実際は、もっと多くの人が恣意的な継続雇用拒否をされ、泣き寝入りをしていると思われる。

(3) 平成21年3月、組合員として最初に継続雇用を拒否された岡田さんは、従業員としての地位確認及び継続雇用がなされるべき期間の賃金支払を求めて提訴した。
 大阪地裁、大阪高裁では、もっぱら岡田さんが会社の設立した継続雇用基準をクリアしていたのかどうかという事実関係が争点となった。
 平成22年9月大阪地裁において、また平成23年3月には大阪高裁において、岡田さんは会社の定めた継続雇用基準に達していたとして、岡田さん勝訴の判決を言い渡した。
 もっとも、その法律構成については、両者で判断が分かれた。すなわち、大阪地裁は、会社が継続雇用基準を定めた就業規則を制定・周知させた行為が再雇用契約の申込となり、継続雇用基準を満たした労働者が再雇用を希望した行為が再雇用契約の承諾となるとの法律構成をとったのに対し、大阪高裁は、会社が継続雇用基準を定めた就業規則を制定・周知させた行為は再雇用契約の申込の誘引にすぎず、労働者の再雇用の希望が再雇用契約の申込で、会社が継続雇用基準を満たした労働者の再雇用契約の申込を拒否することは、解雇権濫用法理の類推適用により権利の濫用となる旨の法律構成をとった。
 なお、そのほか大阪高裁では、労働者が継続雇用基準を満たしていたかどうかについては、継続雇用を拒否する会社側に、当該労働者が継続雇用基準を満たしていなかったことについて立証責任を負うと判断している。

(4) 会社は、かかる大阪高裁の判断を不服として、上告、上告受理申立をした。 

3 会社の上告受理申立理由と最高裁の判断

(1) 会社は、法律審である最高裁に対し、岡田さんが会社の定めた継続雇用基準を満たしていたかという事実関係については争わず、主に以下の法律的な点について、岡田さんの地位確認請求を認めた高裁判決は不当だとして、上告受理を申し立てていた。
 ①労働契約法6条の労働契約が成立するには賃金額、就労場所、労務の種類や態様、就労時間等の労働契約の本質的要素について確定的内容の合意がなされるのが不可欠であるにもかかわらず、この合意なく労働契約の成立を認めたのは誤りである。②「週30時間以内」(会社の継続雇用規定に定められていた)という所定労働時間が確定的に定まっていない特異な労働契約を認めたのは誤りである。③継続雇用条件を満たす労働者から再雇用契約の申込があった場合に、本件継続雇用規定には同規定の範囲内で労働条件を決定できるとされているのに、使用者にその申込に対する承諾義務を負わせたのは誤りである。④継続雇用条件を満たす労働者の申込に対して使用者が承諾義務を負ったとしてもそれは単なる債務不履行であって損害賠償請求が認められることはあっても、承諾義務を履行しなかったとして解雇権濫用法理が類推適用されるものではなく、承諾義務違反を理由として使用者に再雇用契約の承諾の意思表示が擬制されるとするのは誤りである。

(2) 最高裁は、これらの点を受理した上で、以下の判断を行った。
 会社の定めた継続雇用契約基準を満たす労働者には、定年後も「雇用が継続されるものと期待することには合理的な理由がある」とし、会社がその労働者に対して継続雇用基準を満たしていないとして継続雇用規定に基づく再雇用をしないことは、「他にこれをやむを得ないものとみるべき特段の事情もうかがわれない以上、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」とした上で、高年齢者の職業の安定その他福祉の増進を図ることを目的とする高年法の趣旨に鑑みて、定年後も本件継続雇用規定に基づき「再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものとみるのが相当であり、その期限や賃金、労働時間等の労働条件については本件規程の定めに従うことになるものと解される」と判断した。
 最高裁の判示した「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」というのは労働契約法16条の解雇権濫用法理の言い回しそのものであり、また最高裁は有期雇用契約の雇い止めについて解雇権濫用法理を類推適用した東芝柳町工場事件、日立メディコ事件を引用していることからも、解雇権濫用法理の類推という大阪高裁のとった枠組みを明快に採用した。しかも、雇用契約が「成立」ではなく「存続」とした点については、高年法の継続雇用は新たな契約の成立の場面ではなく、高年法の趣旨に鑑みて、定年前の雇用契約が継続する場面であると解釈したものとみることができる。であるからこそ、継続雇用拒否に解雇権濫用法理が類推適用されることとなるのである。

 4 最高裁判決の意義

 以上のように、今回の最高裁判決は、高年法下における再雇用を拒否された事案について、雇い止め事案と同様に「解雇の法理」が類推適用され、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」場合には、再雇用されたのと同様の雇用関係が存続することを、最高裁として初めて判断したものであり、画期的な意義を有する。
 ところで、平成24年9月には、平成25年4月から年金の報酬比例部分の支給開始年齢も65歳まで引き上げられることに対応するものとして、継続雇用者の選別を許す改正前高年法9条2項が段階的に廃止されることとなった(平成25年4月1日施行)。
 しかし、平成37年まで12年かけて段階的に廃止するという長期間の経過措置がとられたため、その間は、選別雇用制度が存続する。また、厚生労働省の定めた指針によれば、対象労働者が心身の故障や勤務状況の著しい不良など就業規則に定める解雇事由又は退職事由に該当する場合には継続雇用しないことを可能としている。継続雇用制度の恣意的運用による継続雇用拒否は、本年の高年法改正後も、繰り返されることが懸念される。
 本最高裁判決は、今後も懸念される本件同様の高年齢者雇用に関する紛争に関し、高年齢者の雇用安定という高年齢者雇用安定法の趣旨に立ち返って、継続雇用に関して解雇の法理を類推適用し、雇用の存続と賃金請求権を認めたものであり、高年齢者の雇用安定を大きく前進させるものといえる。
 津田電気計器では、残り2名の組合員(植田修平さん、中田義直さん)も会社から継続雇用を拒否され、労働委員会、裁判において現在も係争中である。私たちは、この判決を手に、全面的な争議解決のためにこれからもっと運動を強める所存である。
 この最高裁判決が、岡田さんと同様に、恣意的な査定、不当な差別によって継続雇用拒否をされた全国の労働者が、泣き寝入りをしないで立ち上がるための一つの武器になれば幸いである。

(弁護団は、鎌田幸夫、谷真介、中村里香)

 

 

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