弁護士 西 川 大 史
1 はじめに
大阪府労働委員会は、2012年8月27日、金本運送が建交労の団体交渉を拒否したこと、建交労金本運送分会の分会長に対する自宅待機命令及び解雇が不当労働行為に該当するとして救済を命じた。
2 事案の概要
不当労働行為救済申立を行ったのは、建交労大阪府本部であり、被申立人である金本運送は、守口市でトラック運送業を営む会社である。
金本運送でトラック運転手として勤務してきた男性従業員は、業務中にトラックから転落する事故により負傷し、会社を休業していた。その後、医師から就労可能という診断がなされたにもかかわらず、会社は職場復帰を拒むため、2010年2月16日、建交労に加入し、建交労金本運送分会の分会長に就任した。
建交労では、分会長の早期の職場復帰を求めて団体交渉を行ったが、会社は分会長の職場復帰をなかなか認めず、分会長が職場復帰できたのは2010年5月になってのことだった。そのため、建交労では、分会長の職場復帰が大幅に遅れたのは会社の責任であるとして、休業期間中の賃金の支払いを求めるとともに、これまで支払われていなかった残業代の支払いを求めて団体交渉を行ったが、会社は一向に休業期間中の賃金、残業代を支払わなかった。それどころか、会社は、建交労対策に労務担当顧問を採用したり、建交労の組合員のみに賃金減額を一方的に通知するなど、建交労嫌悪の意思をあらわにした。
そのような中、2010年10月8日、分会長が配送先のスーパーにおいて、台車で搬送していたところ、買い物客の女性が足を負傷するという事故が発生した。もっとも、スーパーのビデオには、台車と女性が衝突した瞬間は映っておらず、ただ分会長が押す台車の横を女性が通る姿や、その後女性が倒れている姿が映っているだけに過ぎず、スーパーの従業員も、ビデオ映像を見て、「あなたが後ろから突いたんじゃないね」と明確に述べるなど、分会長の責任による事故ではなかった。それにもかかわらず、会社は、この事故は、分会長の責任により生じたものと決めつけた。
建交労は、2010年10月12日、建交労組合員のみに賃金減額を通知したことは違法であるとして、会社に団体交渉を申し入れたが、会社は事故の処理が終わっていないとして、団体交渉を拒否するとともに、事故の責任を分会長に押し付け、自宅待機を命じた。また、建交労は、2010年11月6日、分会長に対する自宅待機命令の撤回等を求めて団体交渉を申し入れたが、会社は、事故処理が終わっていないこと等を理由に再び団体交渉を拒否した。そこで、建交労は、団体交渉を拒否したこと、分会長に対する自宅待機命令は不当労働行為に該当するとして、府労委に対して救済を申し立てた。
その後、団交拒否と本件自宅待機処分について、大阪府労働委員会で調査中であった2011年4月13日、会社が、スーパーでの事故が専ら分会長の責任によるものと決めつけ、分会長を解雇したため、建交労は、分会長に対する解雇が不当労働行為に該当するとして、府労委に対して救済を申し立てた。
3 府労委の命令
府労委は、会社の団交拒否について、正当な理由のない団交拒否に当たると明確に述べるとともに、分会長に対する自宅待機命令及び解雇についても、事故の状況、要因等について明らかでないにもかかわらず、分会長に事故の責任すべてを押し付けることは許されないとした。
そして、府労委は、分会長に対する解雇、自宅待機命令について、会社と建交労との労使関係には緊張状態の高まりが生じていたことや、会社が正当な理由なく団交拒否したことなどから、会社の組合嫌悪の意思、不当労働行為意思を推認できるとした。
4 さいごに
本件の府労委の命令は、会社の一連の不当労働行為について、事実、証拠に基づいて、当然の判断をしたものであるが、労働者の団結擁護、労働関係の公正な調整を目的とする労働委員会としての役割を存分に発揮した命令である。
なお、会社側は中労委に再審査を申し立てた。引き続き、ご支援のほど宜しくお願い致します。
(弁護団は、梅田章二、楠晋一各弁護士と当職である)