民主法律時報

成果主義年俸制の導入における労働組合の存在意義を再確認 読売テレビ不当労働行為事件

弁護士 中 西   基

  本年7月22日、大阪府労委が不当労働行為救済の勝利命令を出しましたのでご報告します。

  1. 事案の概要
      読売テレビでは、1999年から管理職について成果主義年俸制が導入されていましたが、民放労連読売テレビ放送労働組合は、成果主義年俸制の導入には一貫して反対の立場をとってきました。2009年4月、会社は、新たな年俸制度を導入するとして、従来は年俸制ではなかった「次長」職を廃止し(「次長」はそれまでは準管理職という位置づけでした。)、「次長」職にある従業員については、年俸制管理職である「副部長」職に「昇格」させる計画を明らかにしました。その際、会社は、該当者全員に対して、「管理職年俸契約書」への署名押印を要求し、署名押印に応じない者については自動的に一般職へ降格となると説明しました。
      労働組合は、新たな年俸制度の内容に関しては労働条件にかかわる労使交渉事項であることから、労使交渉が整っていないにもかかわらず、該当者(組合員12名を含む)に対して個別に「管理職年俸契約書」への署名押印を迫ることは許されないと主張して、組合員に対しては労使交渉が整うまでは「管理職年俸契約書」への署名押印を拒否するように統制しました。
      しかし、会社は、会社が一方的に設定した期限(計画発表から約3か月後)までに「管理職年俸契約書」に署名押印しない者については、管理職への昇格を希望しないものとみなして一般職へ降格させるという態度をとり続けました。
      このような状況の中、12名の組合員のうち5名が組合を脱退して署名押印に応じてしまいましたが、残り7名の組合員は組合の統制に従って署名押印に応じませんでした。
      結局、労使交渉が整わないまま、会社は、会社が一方的に設定した期限が経過したとして、2009年7月1日付で、5名については管理職へ昇格させ、残り7名については一般職へ降格させる人事発令を強行しました。
      そのため、組合は、大阪府労働委員会に不当労働行為(支配介入)の救済を求めました。
  2. 争点
      会社は、計画発表当初は、新たな年俸制度の導入は人事制度であって労使交渉事項ではないという態度でしたが、その後は、労働条件については労使交渉事項であるということは認めつつも、新たな年俸制度は従来の制度と比べて不利益変更になるため該当者に個別に同意を得る必要があると主張して、「管理職年俸契約書」への個別の署名押印に固執しました。
     しかし、会社の主張は、就業規則によって導入された成果主義賃金制度が対象労働者に適用されるにあたってなおも個別同意が必要かどうかという論点(①)を、成果主義賃金制度の導入にあたって労働組合との交渉を要するかどうかという論点(②)と、混同してすり替える主張というべきです。
      前者の論点①は、学説上は、就業規則の不利益変更の延長線上の問題として論じられています。すなわち、賃金など重要な労働条件の不利益変更については、「高度の必要性に基づいた合理性」が必要であるとされ、合理性があるといえるための判断要素として、労働組合との十分な協議が尽くされていることを重視する見解が支配的です。そして、就業規則を変更することによって成果主義賃金制度を導入するにあたっては、「高度の必要性に基づいた合理性」という点がクリアされたとしても、なお、さらに対象労働者の個別同意を要するかどうかというのが論点①として論じられてきました。この論点①について、個別同意が必要であるとする見解(土田など)が想定しているのは、労働組合が就業規則変更による年俸制の導入に合意している場合であっても、なお個別に同意しない労働者については年俸制は適用されないという場面だと思われます。   
      他方、後者の論点②に関しては、成果主義賃金制度の制度設計については義務的団交事項だとする見解が支配的であると思われます。 
     労使間で合意のうえで導入された年俸制度であったとしても、なお労働者の個別同意が必要とされるのに、本件のように、新たな年俸制度の導入について労使交渉が実質的に進展していないにもかかわらず、個々の労働者に対して会社が一方的に定めた期限までに「管理職年俸契約書」に署名押印するよう迫ることは、労働組合との交渉を実質的に否認する明白な支配介入というべきです。
  3. 府労委命令
     大阪府労働委員会は、2011年7月22日付の命令書で、①期限までに「管理職年俸契約書」への署名押印を求めたこと、②労働組合の統制にしたがって署名押印に応じなかった組合員7名を一般職に降格させたことは、いずれも不当労働行為にあたるとして、7名全員を2009年7月1日付に遡って管理職に昇格されたものとして取り扱うこと、及び、再発防止を誓約する書面を労働組合に手交することを命じました。
     成果主義賃金制度を導入するにあたって労働組合の果たすべき役割、労働組合の存在意義を再確認するものとして高く評価できると思います。
     なお、会社は、中労委に再審査を申し立てました。引き続き、ご支援よろしくお願いします。

     (弁護団は、高橋典明と中西基)

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