民主法律時報

法テラス奈良法律事務所事件~非正規職員に対する賃金差別は許されない~

弁護士 兒玉 修一

  1.  事案の概要
     (1) 「法テラス」、すなわち日本司法支援センターは、2006年4月1日、「自由かつ公正な社会の形成に資すること」を目的として制定された総合法律支援法に基づき設立された法務省の所管法人である。奈良県には、奈良市内に奈良地方事務所、及び法テラス奈良法律事務所、及び吉野郡大淀町内に同南和法律事務所が設置されている。
      原告のSさんは、法テラス奈良法律事務所で、スタッフ弁護士の補助業務に従事している。ちなみに、「補助」とはいっても、電話の取次ぎや多重債務事件における引き直し計算に止まることはなく、過払金請求訴訟における訴状の作成や破産申立書の作成から法廷で使用する図表類の作成等、日々フル回転しているのは、その他多数の法律事務所と同様である。(2) ところで、法テラスの職員の中には、期限の定めのない常勤職員、期限の定めのある常勤職員(任期付常勤職員)、さらに非常勤職員という3つの区分がある。就業規則も別々に作成されている。そして、その賃金水準を比較した場合、非常勤職員は、常勤職員の約3分の2となっている。また、非常勤職員は、当然に有期とされており、しかも、3年以上は更新しない取扱いである。
     Sさんは、現在、非常勤職員とされているが、全国各地に設置された「法テラス◯◯法律事務所」の職員が、全て非常勤というわけではない。当然、常勤職員も存在しており、現に、法テラス奈良法律事務所でも、もう1名の職員は常勤職員である。

    (3)  ここで、法テラス奈良法律事務所でも、それ以外の事務所でもそうであろうが、職員の雇用区分に応じて、事務職員として処理しなければならない業務に有意な差異はない。にもかかわらず、上記のような差別的な賃金しか支給されないのは違法ではないかという点を問うのが、本訴訟である(なお、法テラスには未払残業代の支払も請求したが、これには任意に応じている)。

  2.  予想される争点
     (1) 本訴訟は、未だ第1回口頭弁論を終了したのみであり、法テラス側の主張も明確ではない。
     しかし、訴状においても指摘した①短時間労働者の雇用管理の改善に関する法律8条(いわゆるパート労働法8条)違反の有無、また②同一価値労働同一賃金原則違反の有無が争点となることは、ほぼ予想されている。(2) さらに、Sさんの場合、2009年4月から2010年3月までの1年間だけ、「任期付常勤職員」として勤務したこととされ、常勤職員としての給与を支給されている(その前後を通じ担当業務の内容には何の変化もない)。これは、他の職員が産休ないし育休にはいったため予算の枠が空いたそうである。しかし、2010年からは、再び、非常勤職員に戻されたという経緯がある。このとき、賃金も下げられている。
     これは、「単なる労働条件の不利益変更ではないのか」といった点についても、議論していきたい。
  3. 今後の展開
     ところで、本訴訟の提起にあたって、Sさんは、民事法律扶助制度の利用を余儀なくされた。法テラスは、自身を相手方とする紛争に対し、扶助制度の利用を拒否することはなかったが、そんなことで喜んでいる場合ではない。同制度が、経済的に余裕のない市民を対象していることは自明であるところ(総合法律支援法30条等)、他ならぬ法テラスに勤務しているSさんが、その対象となってしまっているのである。
     どうやら「法テラス」という名称や、そのロゴは、相談者を明るく照らすことをイメージするものらしい。しかし、そのようなことを目指しているはずの法テラス内部に、敢えて「光」と「影」の部分をつくり、それを平然と放置するというのは、率直に述べて理解し難い。「内がわも 明るく照らせ 法テラス」。
     昨今、国や地方自治体に関連する公的組織における非正規労働、差別待遇の問題が次々と指摘されるようになっている。本訴訟も、その一つであることは間違いない。良い報告ができるよう努力したい。

 (弁護団は、当職以外に、田辺美紀弁護士、西木秀和弁護士他多数。
  なお、応援団HPのアドレスは、http://sites.google.com/site/houterasosho/home/keii )
  

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