民主法律時報

《書籍紹介》弁護士 城塚健之著「最新テーマ別[実践]労働法実務1「『労働条件変更』の法律実務」

弁護士 谷 真介

2024年7月、旬報社から「最新テーマ別[実践]労働法実務」シリーズが発刊されることになりました。なんと全13にもわたるテーマについて約1年半をかけて続刊するという壮大な試みです。

その先陣をきる第1巻として、城塚健之弁護士が執筆された「労働条件の変更の法律実務」が発刊されました。すでに翌8月には「雇止め・無期転換の法律実務」(弁護士佐々木亮著)が刊行されており、この9月には「休職の法律実務」(弁護士塩見卓也著)、来月10月には「労働者が円満退職するための法律実務」(弁護士嶋﨑量著)、さらに11月には「残業代の法律実務」(弁護士渡辺輝人著)が続々刊行される予定です。

この執筆陣の豪華さを知っている私でなくても、テーマをみるだけで、現場で頻発する相談への対応に役立つ書籍ではないかと直感されることと思います。さらに目に飛び込んでくる「徹底的に実用的!」、「相談・申入・訴状までこの1冊でわかる」、「ニーズが高いテーマを第一線の弁護士が解説」という刺激的な帯からは、手にとらないわけにはいかないと思われることでしょう。

しかし、この書籍はそれだけではありません。各書籍の冒頭に編者を代表して城塚弁護士が書かれた「シリーズ刊行にあたって」では、まず「いわゆる実務書であり、相談を受けた弁護士・司法書士の手引きとなることを想定している」とされています。ここまでは想定内です。しかしその後、「しかし、私たちは裁判所の解釈がすべて正しいとは考えていない」と続きます。実はこれが類書にない本書の最大の特徴です。

私自身、担当する非正規労働者の旧労契法20条裁判や偽装請負・違法派遣の裁判などで、裁判所というものが、企業が労働者を経済的にも人格的にも支配することによって「(裁判所が思う)企業秩序」を維持することに腐心し、生命や健康に関わる場面であればもとより、労働者が「働く」ことの尊厳や価値を尊重したり、または寄り添うつもりなど一切ないと言わんばかりの、冷たく、また厳しい態度に絶望し、自身が弁護士でありながらも、司法への諦めの気持ちすら覚えたこともありました。しかし、前述の冒頭のメッセージでは、この書籍では、裁判所のとる立場を踏まえながらも、これを変えていく努力をすることが必要であること、そしてこの書籍を通じて「労働弁護士魂」を感じ取って欲しいという城塚弁護士の熱い思いが記されています(紙幅の関係で詳しく紹介できませんが、ぜひこの部分をまずはお読みいただきたいです)。このような書籍は、間違いなく類書がありません。労働者に寄り添い、事実と証拠を武器に、そして法解釈を徹底的に突き詰めてたたかってきた労働弁護士であるからこその知恵と魂が詰まった書籍、シリーズとなっています。

そのシリーズ第1巻で城塚弁護士が執筆された「労働条件変更の法律実務」では、就業規則の不利益変更が取り扱われるかと思いきや、それにとどまらず、例えば人事考課、賞与の決定、降格や配転、退職金の不支給、定年後再雇用の労働条件にまで、その範囲が及んでいます。その狙いは、「はじめに」に城塚弁護士が書かれているのですが、労働紛争がたいていの場合、使用者による労働条件変更から始まるから、というところにあります。確かに、私たちが労働者から受ける日々の相談の多くは、労働者自身が「不利益な(あるいは不当な)扱いを受けた」と思われたところが出発点になっています。そのとき、まずは有意な助言ができるのか(それが難しくてもひねり出せるのか)、労働者をただ諦めさせて帰らせるのかは、労働組合や弁護士のまさに腕の見せどころです(存在意義といってもよいと思います)。本書は「ただ諦めて帰させるのは、労働弁護士とはいえないよ」と叱咤激励するだけでなく、その具体的な方法を指し示すものであり、その点で類書がない、労働組合や弁護士必携の書籍です。ぜひお買い求めいただいて、お手元において日々の労働相談や団体交渉、あるいは事件活動に生かしていただきたいです。

最後に、極めて個人的に、この書籍の唯一の難点と思われるところを挙げるとすれば、書籍のカバーに、まだ発刊されていない今後のシリーズについて著者(予定者)の名前付きで刊行年月が明示されていることでしょうか。といいいますのも、来年6月以降続刊予定の第二シリーズ、その第8巻として「定年・再雇用の法律実務」を光栄なことに私が執筆をすることになっているからです。まだ構想を練り始めた段階なのですが、このような素晴らしい書籍に続くシリーズとして執筆できる自信は到底なく、相当なプレッシャーを感じています。ですが、せっかくいただいたお話しであり、私も少しでも「労働弁護士魂」を感じとっていただける書籍になるよう、努力したいと思います。最後は所信表明のようになってしまいましたが、本シリーズ、本当におすすめです。ぜひお買い求めいただきご活用ください。

旬報社  2024年7月刊
定価   4,400円(税込)

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