弁護士 西田 陽子
本書は、コロナ禍における雇用問題を多面的に取扱い、現状の理解や実務上の問題解決に役立つだけではなく、これからの雇用がどうあるべきかを考えさせてくれる一冊です。
編著者は和田肇先生であり、著者には、当会会員である塩見卓也弁護士(第2章)及び緒方桂子南山大学法学部教授(第8章)も名を連ねています。
本書の特徴は、「はしがき」にもあるとおり、「法律の仕組みの説明ではなく、その哲学と課題の分析にも力点を置いている」ことにあります。単なる知識の解説ではなく、コロナ禍を契機として、これからの働き方を読み手に考えさせるところに、本書の意義があります。
2 本書の構成
本書は、はしがきと序章で、和田肇先生が、コロナ禍を契機に、今までの働き方を考え直してみることを呼びかけることから始まります。
第1章は、現場(組合、労働弁護士)の声から、コロナ禍で働く人々がどのような問題に直面しているのかを浮き彫りにしています。
第2章は、解雇、雇止め、派遣切りがテーマであり、労働法や裁判例の到達点の解説をするとともに、コロナ禍の雇用終了に関する問題がどのように解決されるべきかについて論じています。
第3章は休業手当等、第4章はテレワーク、その後はセーフティーネットの問題(第5章は非正規雇用、第6章はフリーランス)と続き、第7章はジェンダーの問題を取り上げています。いずれもコロナ禍でいっそう顕在化した問題であるといえます。
第8章は、韓国の政策に関するもので、「幸福国家」の重要な要素としての「包容国家」、すなわち、家族ケアとの両立に向けての施策や、全国民雇用保険制度の試みについて紹介しています。
第9章は、ポスト・コロナにおいてワーク・ライフ・バランスの取れた働き方と、制度的なセーフティーネットの再構築が重要であることを指摘して締めくくられています。
3 私のおすすめポイント
私がとくに読んでよかったと思ったのは、第2章で、センバ流通事件決定(仙台地裁令和2年8月21日)の端的な解説とともに、雇用調整助成金の特例措置をコロナ禍収束の目処が立つまで継続すべきとの立場がはっきり書かれているところです( 頁以下)。「コロナ禍だから解雇されても仕方ないのかな」と考えていた一般の労働者の方々の大きな希望になると思います。
4 まとめ
コロナ禍において、いま、働く人々が直面している問題と、それらがどのような働き方や法により克服されてゆくべきか。ポスト・コロナには何が待っているのか。本書は、これらの難題について考えるための、確かなマイルストーン(標石)の役割を果たすものです。
約200頁とコンパクトながら中身のぎゅっと詰まった一冊であり、「今」読むことに多大な意義のある書籍です。ぜひお買い求めいただき、タイムリーにお読みいただくことをお勧めいたします。
日本評論社2021年1月発刊
A5判216頁
定価 2200円(税込)