民主法律時報

書籍紹介 伍賀一道 著『「非正規大国」日本の雇用と労働』

評者:働き方ASU―NET副代表理事 川 西 玲 子

 本書は昨年10月末に出版されて早くも2刷となっていることからも、まさに待たれていた書であることが覗える。私自身も非正規問題を周辺問題でなく主人公として解明してくれるこのような本を待っていた。派遣村から6年を経て非正規雇用のいまはどうなっているのか。冒頭5人の非正規労働者の実態を示しながら、非正規雇用と一口に言ってもその実像はいかに多様な状況にあるのかをまず明らかにしている。その上で過去30年間の雇用と働き方・働かせ方の実態を踏まえて、その問題点と改革すべき課題を示している。

第1章では日本が「非正規大国」になる過程で、雇用と働き方・働かせ方にどのような変化があり、どのような問題が起こったのか、伍賀氏作成のいつものわかりやすい関係図で明快に全体の姿を写し出している。第2章では雇用形態の変化と非正規雇用の働き方のリスクについて解明している。就業者と失業者の中間的存在としての「半失業」の矛盾に満ちた存在を、マルクスの時代には見られなかった新たなタイプの「相対的過剰人口」であるとしている。第3章では非正規の中でも最も問題を抱える間接雇用に焦点を当て、その構造を原理的に考察している。そして多国籍企業や金融資本が中心の現代資本主義システムのもとでは、もはや労働者に安定した雇用を提供する力を失い、半失業でしか雇用を用意できなくなっている。しかもこの「半失業」の人々を利潤確保の手段として利用し、さらに政府は構造改革や規制緩和で後押ししてきた、とするその構造解説は大変わかりやすい。第5章では、非正規雇用の戦後史をたどりながら、その歴史的変遷と今日の要因を探り、7・8章では小泉政権と第1次、第2次安倍政権の構造改革が雇用の劣化と働き方の貧困をより促進し、デフレからの脱却を困難にし、持続可能な社会を損なうリスクがあることを指摘している。そして、終章ではどのようにして現状を転換するのか、そのポイントはどこにあるのかとして、①ディーセントワーク、②労働基準の明確化、③雇用を増やす政策、④失業時の生活保障の4つの項目を上げ具体的に提起している。詳細な現状分析は打開する方策を考えるためにこそあるとする氏の姿勢が終章に熱く込められていると感じた。

本書の特徴は伍賀氏のこれまでの緻密なデーターを積み上げて検証していく専門書的な著作とは趣を異にして、簡潔かつ分かりやすく各章がまとめられている。問題点を一目瞭然に検証しているグラフや表の文字も大きく、私のような年齢・不勉強でも大変読みやすく、また構成も理解しやすいように工夫されていてありがたかった。労働者・労働組合の方にも是非お勧めしたい。
ASU―NETでは昨年から本書を5回にわたって森岡ゼミで取り上げて学習してきたが、最終回には伍賀氏も参加して下さり、学者・研究者の参加も多く、時間を大幅に超過する熱心な議論が行われた。改めて“非正規大国日本“を解明し全力で取り組むべき課題となっていることを実感した。

発行 新日本出版社
定価 2700円+税

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