弁護士 西 川 大 史
2014年8月に、「労働審判を使いこなそう!」(伊藤幹郎・後藤潤一郎・村田浩治・佐々木亮各弁護士著、エイデル研究所)が発行されました。
労働審判の申立件数が年々増加する傾向にある中、労働審判手続の解説など入門書的な書籍が多く発行されていますが、本書は実践的な内容であり、労働者側弁護士や労働組合の活動家にとっては必読の一冊です。
2 書籍の特徴
まず、本書では、解雇や残業代請求などの典型的な類型から、ハラスメントや派遣労働などの複雑な類型まで網羅しており、それぞれの事件類型ごとの留意点やポイントが記されています。また、巻末には著者がこれまでに扱った全222件の労働審判事例の一覧が掲載されていることも本書の大きな特徴の一つです。労働審判の解決事例は法律雑誌等にも掲載されることが少なく、どのような事案について労働審判手続を選択したのか、各事件の解決水準などがあまり明らかではありません。これだけ多くの解決事例が掲載されている書籍はまずありません。
また、本書では、第1回審判期日に当たっての留意点なども詳しく記されています。近時の労働審判手続では、審判委員会が第1回期日で心証をとり、第1回期日から調停が始まることも多いというのが実情です。そのため、本書で述べられている「第1回審判期日が「勝負」と知るべし。とにかく第1回期日が勝負の日だということを肝に銘じて臨むこと」は、代理人弁護士としての準備、心構えの大切さを改めて痛感する内容であり、そのために必要な準備や心構えが詳しく記されています。
3 著者による座談会
本書の第5章では、4人の著者による座談会が掲載されています。申立時や期日における留意点、申立書のボリューム、陳述書や証拠説明書の活用方法、解決金の水準、労働審判にふさわしい事案などについて本音で討論されており、労働審判の魅力や課題が分かりやすく語られています。
代理人として直面する日頃の労働審判における悩みのほぼすべてがこの座談会に凝縮されているように思います。この座談会は、手続の選択や、事件の見通し、解決金の提案など、労働審判手続全般で悩んだとき、迷ったときなどのバイブルとなるものでしょう。
4 さいごに
著者の一人である後藤潤一郎弁護士は、「おわりに」において、労働審判は、これまで裁判官主導で行われてきた労働裁判とは異なり、「申立側が土俵を設定し、そこでどのような相撲が展開されるか、どのような軍配が下されるかを予測して行う手続きなので、解決の満足度は申立代理人の手続法的、実体法的力量に大きく依存することになるのです。」と述べられています。
早期に労働者の勝利的解決を勝ち取るために労働審判を有効に活用し、労働審判をより利用しやすく満足いく制度とするためには、まさに私たち申立人側(本人、組合、代理人)の努力と力量によります。本書は、私たちの力量を磨くための最大のツールとなるものです。是非ご一読下さい。
2014年8月18日
エイデル研究所 発行
定価 2700円
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