評者・弁護士 河 村 学
榊原秀訓 編著
自治体研究社 発行
2400円+税
- 本書では、橋下大阪市長や河村名古屋市長が行う手法や政策の問題点が検討されている。全7章の論考は独立して分担執筆されており、それぞれのテーマでの現時点でのまとまった論考としては最良のものとなっている。とりわけ橋下大阪市長・大阪維新の会の手法や政策の問題点、その背景、運動の要点等を議論し検討している民法協会員にとっては、まことに時宜を得たものであり、「大阪問題」を考えるにあたっての必携の書といえる。なお、テーマ及び執筆者は以下のとおりである。
・自治体ポピュリズムの憲法政治―プレビシットと民意―(植松健一)
・ポピュリズム首長と議会・住民参加(榊原秀訓)
・国会と地方議会の改革のゆくえ(小沢隆一)
・大阪都構想と「国家改造」(森裕之)
・大阪府「職員基本条例」の法的問題点(城塚健之)
・大阪における「国家起立斉唱強制条例」と「教育基本条例案」の法的検討(丹羽徹)
・名古屋市の「河村流減税」の検証(山田明) - 本書の一つの特徴は、自治体ポピュリズムの背景や問題点を明らかにしつつも、それに留まることなく、現行制度や実態のかかえる矛盾や問題点にも向き合い、その運用のあり方や制度的な解決方向も示唆している点である。例えば、1章では、現行地方自治法が採用する二元代表制は「実は運用難度の高い制度」とし、「議会優位の二元代表制」として把握することを含め、首長と議会の関係をどう位置づけるべきか検討が進められている。また、1章・2章では、「直接民主制のリスク」についても言及がなされるとともに、ポピュリズム首長が、政策に対しては「積極的な(住民)参加制度を採用していない」ことを指摘し、住民参加制度のありようについても検討が加えられている。さらに、3章では、衆院比例定数削減の問題にも言及しながら、地方議会の議員数や議員報酬をどう考えるべきかの検討がなされている。
いずれも、あるべき制度を検討し、市民・府民に共感を広げる運動を行うために避けてはとおれない課題であるといえる。 - もう一つの特徴は、政策部分にかかわる論考では、政策の問題点が、網羅的に、その理由を詳しく述べながら論じられている点である。4章では、大阪都構想が住民のために使われるべき財源を大阪都が吸い上げてしまう制度であることが具体的な数字をもって明らかにされている。5章では、法律にも違反して公務員組織を知事の「私兵集団」にする条例であることが暴露されている。6章では、各条例は戦後教育のあり方を根底から覆えすものであること、教育を政治に従わせ、学校を財界のための人材を作り出す「工場」に変容させるものであることが、多面的な角度から論証されている。さらに7章では、河村減税が、名古屋市の財政に与えた悪影響や、これをテコにかえって住民の利益に反する施策が進行している事態が暴露されている。
いずれも、市民・府民との対話や運動への確信をもつために必要な知識・理論であるといえる。 - 本書では、随所に、自治体ポピュリズムの背景・手法と、ナチス・ヒトラーのそれとの類似性が指摘されている。「「ワイマールの悲劇」という歴史を喚起させる」こと自身が、自治体ポピュリズムの「決断主義」に抗するために必要とさえ述べられている。
ナチスの台頭は、社民=リベラル派政権の掲げる政策がご破算になっていく失望と、政争に明け暮れる議会・政党政治家への不信を背景にしたものであり、「現在の日本の閉塞状況こそ、ナチス登場前夜の雰囲気に重なる」というのである。
歴史に学びながら、自由と民主主義の意義を喚起する作業もまた必要である。
なお、ナチスの歴史とその宣伝が国民に与えた影響については、「写真・ポスターに見るナチス宣伝術」(鳥飼行博著。青弓社)が詳しい。
*本書において、「ポピュリズム」とは、「政治的再配分による支持調達という側面がないまま、問題の単純化と二項対立式の敵の設定をもって有権者の感情に訴えかけ、新自由主義の犠牲となる層からも支持を調達する」政治手法を指し、「自治体ポピュリズム」とは、このような支持調達を、「自治体住民の生活実感や「地域」・「地方」への愛着」を利用して行う政治手法を指すようである。ただ表題として判りにくいのは残念である。
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