民主法律時報

10月開催「ブラック企業対策!労働判例ゼミ」

弁護士 片桐 誠二郎

今回からは、当会副会長の城塚健之弁護士が執筆した『労働条件の変更の法律実務』(旬報社。本年7月発刊)を参考に検討裁判例を取り上げることにしました。初回である今回は、下記裁判例について検討するとともに、城塚弁護士に同書籍の要点についてお話いただきました。

①ОSI事件(東京地判令和2年2月4日労判1233号92頁)
デイサービスセンターの機能訓練指導員につき、基本給23万円+機能訓練指導員手当1万円から基本給18万円に減額されたことにつき、労働者の個別同意の有無が争われた事案。なお、職種も介護職員に変更された。
②トライグループ事件(東京地判平成30年2月22日労経速2349号24頁)
年功序列的な賃金制度から成果主義・能力主義型の賃金制度に変更する就業規則変更について争われた事案。
③学校法人近畿大学事件(勤続手当等)事件(大阪地判平成31年4月24日労判1221号67頁)
勤続手当の凍結する給与規定変更及び労働協約、共済金掛金負担金(負担率を55.5:44.5とし、この負担率によって算出される金額と実際の控除額との差額分を「共済掛金負担金」(5.5%分)として支給)を一定の経過措置を設けて廃止する旨の労働協約の効力が争われた事案。

裁判例①では、職種変更に伴って賃金が減額される場合の有効性をどのように考えるかが議論になりました。また、テーマからは外れますが、従業員が行方不明となり、14日以上を経過した日を退職日とする退職条項について、「行方不明となり」が通常よりもハードルを上げているとの指摘もありました。
②では、賃金の不利益変更について大曲市農業協同組合事件(最三小判昭和63年2月16日民集42巻2号60頁)と異なり、高度の必要性が求められなかった理由は何故かといった疑問に対して、同事件と異なり実質的な不利益が曖昧であったので触れなかったのではないか等の議論がなされました。また、制度の変更後に個別の労働者に大きな不利益が生じたという事情は、濫用的な人事評価を防ぐ制度的な担保がなかったこと等制度自体の合理性を揺がす事情として位置づけられるのではないかとの意見がありました。
③では、組合規約上、組合総会の決議事項である労働協約締結につき組合決議を経ずに締結し、総会において報告事項として異議なく決議されたこと等をもって追認があったと評価されている点につき、報告事項としての承認をもって追認があったものと評価することはできないとした中根製作所事件(東京高判平成12年7月26日労判789号6頁)との関係でどのように整理をすればよいのか、また、裁判例が指摘する事情をもって団体としての意思形成があったとみる点には疑問がある等の疑問、意見が出ました。

今回は、労働組合員、司法修習生、学生の方々の参加があり、参加者数は合計14名(会場参加者8名+zoom参加6名)でした。次回判例ゼミは12月16日(月)午後6時から開催いたします。次回も活発な議論ができればと思いますので、是非ともご参加ください。

 

民主法律時報アーカイブ

アーカイブ
PAGE TOP