民主法律時報

「労基法改正について考える学習会」のご報告

弁護士 西川 翔大

 2024年9月25日18時から完全オンラインの形式で、「労基法改正について考える学習会」が開催されました。全体として約70名の方にご参加いただきました。

 まず、藤井恭子事務局長から「労働法制をめぐる政府の動きに関する情勢」についてご報告いただきました。
岸田政権下の労働法制をめぐる議論状況として、「三位一体労働市場改革分科会」において、①リ・スキリングによる能力向上支援、②個々の企業実態に応じた職務給の導入、③成長分野への労働移動の円滑化という3つの柱を掲げて議論されていること、労政審労働政策基本部会において「変化する時代の多様な働き方報告書」が公表され、AI等の技術革新が進む中、成長分野への労働移動や労働者のスキルアップを重視する旨の記載となっていることなどが紹介されました。また、「新しい時代の働き方に関する研究会」(労政審労働条件分科会)を設置し、労基法の見直しや労使自治を重視する方向性で議論がされ、経団連から「労使自治を軸とした労働法制に関する提言」が発表され、厚労省において「労働基準関係法制研究会」が立ち上げられた経過等をご報告いただきました。これらの研究会や分科会で労働側委員が少ないという構成の問題点も指摘されました。

 次に、労働基準関係法制研究会を傍聴されている全労連雇用労働法制局の伊藤圭一さんに現在の当該研究会における議論内容、議論の様子等についてご報告いただきました。
まず当該研究会では、経団連の「労使自治を軸とした労働法制に関する提言」に呼応するように、委員から、「労基法の一律規制はなじまない」、「基準を各職場に合わせてカスタマイズすべき」、「労使合意で柔軟化するデロゲーションに着目すべき」といった声が上がり、主に労働時間規制におけるデロゲーション(適用除外)の範囲を拡大する方向で検討されていることが紹介されました。また、デロゲーションの議論に伴い、現行の36協定や過半数代表制の見直し、その他監督行政の見直し、労働者概念の見直しなどが検討されていることが紹介されました。
伊藤さんのお話を踏まえて、参加者からは、本当に労働者からのニーズがあるのか疑問であり、現行の労基法を改正する必要性が不明瞭であるといった指摘や、現実的に中小企業では対等に労使の合意ができるような状況にないこと、デロゲーションは本来の労基法の趣旨・目的に反していることなどの指摘があり、活発に意見交換がなされました。

 今回の学習会を踏まえて、デロゲーションを拡大することは、労働者の従属性を踏まえて労働者保護のために成立した労基法の目的に反するものであり、現在の議論が「多様な」労働現場の実態や労働者の声を踏まえずに行われていることが理解でき、非常に危機感を抱くとともに、労働者側からの意見や取組みを強める必要性を痛感しました。

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