民主法律時報

8月開催ブラック企業対策!労働判例研究ゼミ

弁護士 片桐 誠二郎

8月19日(月)に、「求人票の記載と実態の齟齬」をテーマとして、労働判例研究ゼミを開催しました。「求人票を見て応募したものの、説明された労働条件が違った」、「特に説明がないまま採用されたのに、後から会社が求人票と異なる労働条件を主張してきた」等々、実務的にも問題となることが多いことから、本テーマを取り上げました。

求人票と実態が異なった場合には、成立した労働契約の内容の確定と、成立した労働契約の内容を労働者にとって不利益に変更すること可否が問題となりますが、今回は、後者に関して、求人票通りの労働契約が成立したものの、後に不利益に変更する旨の書面(雇用契約書等)に署名・押印をしてしまった場合に関する裁判例を取り上げました(裁判例は下記のとおり)。

①千代田工業事件・大阪高判平成2年3月8日労判575号59頁

②司法書士法人はたの法務事務所事件・東京高裁令和5年3月23日労判1306号52頁

③福祉事業者A苑事件・京都地判平成29年3月30日労判1164号44頁

検討裁判例は、退職金に関する就業規則の不利益変更についての労働者の同意の有無を、自由な意思に基づくと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するかという枠組みで判断した山梨県民信用組合事件(最判平成28年2月19日民集70巻2号123頁)以前の裁判例(①)と以降の裁判例(②、③)という組み合わせになっています。

検討では、①では、労働者が無期雇用で採用されたと認定しつつも、その後に有期の雇用契約書に署名・押印していることをもって労働条件の変更の同意を認めている点につき、現在の考え方からは同意を肯定するのは疑問であるとの意見が複数の参加者から出ました。また、②③も、求人票に記載された労働条件で労働契約が成立することを前提に、これと異なる内容の書面に署名・押印したことを労働条件の不利益変更の問題として論じた裁判例ですが、今後の活用が見込まれる裁判例でした。他にも、検討裁判例を離れて、求人票の変更に関する職安法の明示義務の履践の有無なども主張のポイントとなり得ることを確認しました。

今回は、弁護士だけでなく労働組合員や司法修習生など計15名(会場参加は8名)の方々にご参加いただき、活発な議論をすることができました。次回は、10月28日(月)午後6時から開催いたします(Zoom併用)。通常と異なり第4月曜日となっておりますのでご注意ください。次回も多数のご参加をお待ちしております。

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