弁護士 篠 原 俊 一
コロナ禍で公演延期となっていた「大阪憲法ミュージカル2020 憲法のレシピ」が、2022年10月にようやく上演となり、出演しました。ここではその体験談などを語ってみたいと思います。
私は「石原莞爾」、「伊豆大島・柳瀬村長」、「袖の下を出さない民衆から闇米を没収する悪い警察官」を演じました。これら役柄を演じるにあたって、私が心がけたことは「自分は素人だから、加点は要らない。失点さえしなければいい。」です。つまり、作品の足を引っ張らないこと、それが私の目標でした。失点しないためには、台詞を完璧に憶えてお客さんに届けなければなりません。演技力云々は二の次、大きな声で台詞をしっかり言う、それで合格、そう思って演じました。ただ、単なるお芝居ならそれでいいのですが、ミュージカルですから歌とダンスがついてきます。
〈台詞〉 話の筋、台詞の趣旨を理解して、あとは繰り返し稽古するしかありません。電車や信号の待ち時間、風呂に入りながら、歩きながらブツブツ台詞を言いました。ミスをするとリズムが狂って、ミスの伝染が起こるおそれがあります。だから自分だけの問題ではありません。それでも間違えた場合に備えて「絶対に、スミマセン、ゴメンナサイ、は言ってはならない」と頭に叩き込んでおくことも忘れませんでした。
〈発声〉 大きな声を出せないと話にならないのが舞台です。ただ、喉に青筋を立てて声帯をガンガン使うと全公演終わるまでに声が潰れてしまいます。稽古の時、声帯に負担のかかる発声をして声が少し枯れました。これはまずいと思って、とにかく、お腹にいっぱい空気を入れて腹筋を使って空気を解き放つよう気を付けました。
〈歌〉 山下透徹先生(以前のMATSUNOBU先生もそうなんですが)のつくるハーモニーは3度、5度といった単純なものでないので、音取るのがたいへんでした。私は絶対音感があるわけでもなければ、譜面が読めるわけでもないので、繰り返し聴いて憶えるしかありません。電車でイヤホーンつけて聴いていると、無意識で声が出てしまいます。隣の人に不審な目で見られることもしばしばでした。
さて、山下先生がおっしゃった言葉で心に残っているのは「隣の音を大切に」です。簡単なようで実は難しい。これができればきっと歌は上手くなると思います。
〈ダンス〉 慣れてないから、私にはこれが一番難しかったなぁ。ステップとか腕と足の連動とか、考えながら動いていては間に合わない。体が勝手に動くようになるまで反復するしかありません。ダンスも電車待ちのホームで稽古しました。目立たないよう小さな動きでやってましたが、周りからは「変なの」と思われていたと思います。
各役柄を演じるについて、私が心がけたこと、演じていて思ったことは次のとおりです。
〈石原莞爾〉
堂々と演じること。この台詞のほとんどは相手方のいない台詞でしたから、間違えると助けてもらえません。台詞を言いながら今度こそ間違えるんじゃないかという恐怖心に見舞われながら演じていました。
〈柳瀬村長〉
堂々と踊ること。振り間違えても「シマッタ」という表情はしないこと。音楽が流れている間に台詞を言い切ること。大島憲法の書いてある「巻物」をきれいに広げること。大島憲法が水泡に帰した時のがっかり感を表現すること。台詞がない時に自然に演技すること(台詞のないときが難しいのです)。
私は、憲法のレシピに出て初めて大島憲法のことを知りました。島民の知恵に脱帽です。
〈悪い警察官〉
「鬼さんこちら手のなる方へ」のメロディを間違えないこと。私が子供の時歌っていたメロディと中井敬二先生の頭にあるメロディが違っていたようで、中井先生からその指摘を受けて修正するのがたいへんでした。
それから「早替え」。実は、柳瀬村長から警察官になるまでの時間がとても短くて「早替え」するのに1人ではとても無理で、3人の手を借りていました。見えないところに苦労があるのが舞台です。
全ての舞台を終えた後、観劇に来てくれた知人、友人から「声はよく響いて、何言っているかよくわかった」と言ってもらえました。ですから、3日間全6公演、台詞を間違えずに大きな声で伝えるという目標は達成できたと思います。ダンス、ハーモニーは間違えましたが、一生懸命やった結果ですし、これに気づいている知人・友人はあまりいなかったような気がするので、まぁ、よしでしょう。
それにしても舞台はハマります。始まる前の緊張感と演じた後の達成感は何ものにも代え難い…。出るたびにいつもそう思います。
次回はあなたも是非!!