弁護士 清 水 亮 宏
従来より、自動車運転者(トラック・バス・タクシー運転者)については、長時間・過重労働の問題が指摘されてきた。2020年度の脳・心臓疾患の労災認定においても、全業種において最も労災支給決定件数が多い業種は運輸業・郵便業である(2020年度:58件(うち死亡件数19件))。
自動車運転者の長時間・過重労働の問題については、現在、労働政策審議会(労働条件分科会自動車運転者労働時間等専門委員会)において、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(改善基準告示)の改正議論が行われており、2022年3月29日に中間とりまとめが公表された。中間とりまとめは、拘束時間や休息時間(勤務間インターバル)について、一定の基準を設ける内容となっているが、特に問題があるのが勤務間インターバルの基準である。
中間とりまとめでは、勤務間インターバルに関して、「勤務終了後、継続11時間以上与えるよう努めることを基本とし、継続9時間を下回らないものとする」とされており、事実上、勤務間インターバルを「9時間」とすることを許容する内容となっている。当然ながら、このインターバルには通勤時間や生活時間(食事や入浴など)は含まれておらず、睡眠時間を十分に取ることもできない水準である。
そもそも、2021年に改正された脳・心臓疾患の労災認定基準では、「勤務時間の不規則性」という項目で、「長時間の過重業務の判断に当たっては、睡眠時間の確保の観点から、勤務間インターバルがおおむね11時間未満の勤務の有無、時間数、頻度、連続性等について検討し、評価すること。」とされ、11時間の勤務間インターバルを取得できているかを業務の過重性の判断要素として検討することとされている。EU労働時間指令において定められている勤務間インターバルも 時間である。中間とりまとめの「9時間」は、世界的なルールからも、近年の情勢からも後退する水準となっているのである。
自動車運転者の過重労働を防ぐことは、労働者自身の健康確保のみならず、事故を防ぎ市民の安全を確保するという観点からも重要である。真に過重労働を防ぐためには、最低でも「11時間以上」が目安とならなければならず、「9時間」という後退した水準では不十分である。
民法協では、2022年4月の幹事会において、自交総連大阪地連の庭和田裕之書記長から、労政審での議論状況についてご報告いただき、この問題を共有・議論した。物流や市民の安心安全な移動を支える産業において労働者の安全衛生が十分に図られないことは非常に重大な問題である。民法協内外において、まともな労働時間規制を求める声を広げていきたい。