弁護士 西田 陽子
*当連載は、弁護士西田がカウンセリング教室で学んだエッセンスを、 法律相談の妖精ココロちゃんとの対話形式でご紹介するものです。
●K先生(以下「K」):今回は、「質問介入」の目的と種類について見てみましょう。
質問介入は、話の流れを大きく左右する「積極的な介入」です。相談者が語った全体の文脈に沿った質問である必要があり、興味本位や自己都合からの質問になっていないか、介入の目的への高い自覚が求められます。また、質問に対する相談者の回答に対しては、尊重し、受容する姿勢が重要になります。前回説明した「伝え返し」をするなど、丁寧な対応を心がけてください。
○ココロちゃん(以下「コ」):法律相談では、法的観点から重要な事実を聞くことに意識がいってしまい、相談者の語る文脈が二の次になってしまうことが多いですね。相談者が不安や悩みを打ち明けているときは、とくに丁寧に対応しようと思います。
●K:まず、質問の種類についてですが、オープンクエスチョン、クローズドクエスチョンという分類は聞いたことがありますか。
○コ:はい。クローズドクエスチョンは、「はい」や「いいえ」、単語や数字で答えられる質問です。オープンクエスチョンは、「なぜですか」など、ある程度の幅をもって具体的な内容を聞く質問です。この2つは、法律相談や尋問のときに意識的に使い分けています。
●K:そうですね。目的に応じて、この2種類の質問を上手に使い分ける必要があります。質問介入の目的は概ね4つに分けられます。まず、問題を焦点化する質問(①)です。相談者が問題状況をどのように捉えているかを把握します。オープンクエスチョンでは「何に困っていますか?」ですね。そこからクローズドクエスチョンでさらに焦点を絞ります。焦点を絞ったら、目的を明確化する質問(②)をします。相談者がどのようになりたいかを問いかけるのです。①と②は、相談者が周りの状況をどのように認知しているかを確認する質問です。
○コ:法律相談では、相談者の認知はあまり重視しないことが多いと思います。認知を確認することには、どのような意味がありますか。
●K:法律相談の場面であっても、さまざまな悩みが語られ、そのすべてが裁判により解決するものではないと思います。本人の認知や行動が変わることで解決する問題もたくさんあります。ですので、前提として、本人の認知を正確に理解することが必要です。
○コ:確かに、離婚事件やハラスメント事案は、とくに認知のずれを感じることがありますね・・・。
●K:認知を確認したら、次は、状況の改善のためにできること、やろうとしていることを尋ねる質問(③)をします。それから、相談者の表現には抽象的な表現が用いられることが往々にしてあるので、それを明確化する質問(④)もします。「何をやってもだめとは、例えばどんなことですか?」といった質問ですね。
○コ:なるほど。これから、目的に応じて、質問を意識的に使い分けたいと思います。
●K:第2回と今回お話しした技術を用いながら、援助者が相談者に対し「積極的傾聴(アクティブ・リスニング)」をし、受容的・共感的にかかわることで、相談者の話は促進されていきます。すると、相談者は思うことや感じることを自由に表現することができるようになり、やがて、相談者に「気づき」が生じ、その人の本心が表出していきます。それが、ようやくたどり着いた「心の領域」であり、そこには問題の核心と解決の糸口があります。
○コ:そういえば、ある労働事件の交渉の過程で、相手方が相談者の方を非常に評価していたことが分かったとき、相談者が「気が済みました」とおっしゃり、事件が終了したことがありました。法的な紛争であっても、相談者の本心を捉えることにより、早期に解決することがあるのかもしれませんね。
●K:法律相談だけでなく、あらゆる人間関係に役立つと思いますよ。次回は、援助者の側から解決提案を行う「コンサルテーション」について説明します。
(第4回へ続く)