民主法律時報

過労死110番プレシンポジウム及び 過労死110番の報告

弁護士 西川 翔大

1 過労死110番プレシンポジウム

(1) 2019年6月12日(水)、エル・おおさかで、「働きやすくなった? 働き方改革の光と影」と題して、過労死110番プレシンポジウムが開催されました。

(2) はじめに、松丸正弁護士から、働き方改革一括法の労働時間の上限規制が過労死等の事件に与える影響について講演していただきました。時間外労働の上限規制は「法定休日労働」は別枠としており、仮に月45時間という上限規制が守られていても、法定休日にも連続勤務を強いられると、容易に過労死ラインと言われる80時間以上の時間外労働に及びます。今回の上限規制でも依然として過労死ラインで働かせることができてしまう実態について紹介されました。

また、厚労省が作成した「時間外労働・休日労働に関する協定届」という三六協定の特別条項のひな形によると、過労死ラインである月100時間、2~6か月でも平均80時間までは働かせてよいと捉えられるような記載があり、今後過労死ラインぎりぎりの特別条項の増加が危惧されることや、労災認定の労働時間が労基法上の労働時間と同義であるという通達があり、今後労災請求における労働時間の認定が厳しくなることも指摘されました。

(3) 次に、脇田滋龍谷大学名誉教授から「働き方改革による労働時間規制の問題点」について講演がされました。働き方改革一括法が、上限規制などの「規制強化」と高プロ制度のような「規制緩和」という相反するテーマを一法案にまとめ、丁寧な審議がされにくい手続的な問題点があるとともに、諸外国に比べても、容易に上限規制の例外が認められてしまう問題点があることを指摘されました。また、働き方改革一括法は省令や指針に細目を委任し、今後、医師や教師の長時間労働や裁量労働制の拡大、副業兼業の促進や雇用によらない働き方の拡大といった動きがある中で、長時間労働をいかにして防止し、人間らしい労働時間を実現していくかが重要であるとして、ソウル市でワークシェアリングを実現し、長時間労働を是正した例をご紹介されました。

(3) 長時間労働の是正や過労死撲滅を目指す上で、働き方改革一括法の問題点を明確に把握し、今後人間らしい労働時間を実現するため、社会に対する働きかけがより一層重要であることを確認したシンポジウムとなりました。

2 過労死・過労自死・働き方改革110番

(1) 2019年6月15日(土)10時から15時にかけて、過労死・過労自死110番が実施され、大阪では弁護士8人が参加しました。テレビ、ラジオ、新聞等による広報の影響で、大阪では40件、東京では89件、全国 地域を合わせると222件という非常に多くの方から相談が寄せられました。大阪ではパワハラや長時間労働などの過労死予防・過重労働相談が32件と特に多く、自死・精神疾患などの労災補償に関する相談が4件、その他の相談が4件でした。

(2) 今回、非常に多くの方々から、パワハラや長時間労働など職場の問題を認識していても、どこに相談に行けばよいか、どうしたらいいのか分からない、このような電話相談会の開催自体がありがたいといった声が聞かれ、このような電話相談によって、労働者の一つ一つの声を丁寧に拾っていくことの重要性を改めて認識させられました。大阪過労死問題連絡会では、原則として毎月第2水曜日午後6時30分から民法協事務所で例会を開催し、常設ホットラインを設置し日々相談を受け付けていき、今後も相談者の声を拾っていく活動をしていきます。

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