弁護士 片山 直弥
1 はじめに
2019年5月29日、裁判・府労委委員会の例会がエル・おおさかで行われました。今回は「日本貨物検数協会不当労働行為事件」(以下「本件」といいます)をテーマに、個別事件の検討を行いました。なお、出席者は23名でした。
最初に、弁護団の増田尚弁護士から事件の概要・争点、争点に対する府労委命令の判断及びその誤り、本件の意義などについて詳細なご報告を頂きました。
続いて、全港湾阪神支部(以下「組合」といいます)より主に運動面についてのご報告を頂き、最後に、それら報告を踏まえて、出席者との間で活発な議論が交わされました。
2 本件の概要
事案については、民主法律時報2019年4月号(2019・4・15)で弁護団の西川大史弁護士が執筆しました「全港湾阪神支部・日検事件 ~派遣先の使用者性を否定する不当命令」をご覧いただければよいか、と思うのですが、簡単に整理をしておきたいと思います。
日本貨物検数協会(以下「日検」といいます)は、積荷・揚荷の数などを確認し、受け渡したその数を証明する業務を営んでいます。この業務は、少々特殊でして、日検を含む4協会と、4協会に指定された事業体の労働者でなければ行うことができません。なお、その指定された事業体のひとつに日興サービスがあります。
さて、組合は、日検に対し、2016年8月、組合・日検間で2016年3月に取り交わした確認書に基づき、日興サービスの従業員である組合員について直接雇用するよう団交を申し入れました。これに対し、日検は、団体交渉を拒否。組合は、2016年11月、団交拒否が不当労働行為であるとして救済申立てを行いました。
なお、この確認書の内容は、「指定事業体からの職員採用に関しては、平成28年度から平成30年度まで、毎年度約120名の採用を実施するよう努力する」というものです。これは、本件以前(=2016年3月)に組合が日検を相手に救済申立てを行った際に、日検から和解の申し出があって取り交わされたものでした。
3 本件の特殊性
本件の争点のひとつに、日検が日興サービスの従業員である組合員の「使用者」に当たるか、が挙げられます。
報告を聞いて驚いたことに、日検・日興サービス間では、2006年以降、労働者派遣契約ではなく業務委託契約が締結されていた(つまり、偽装請負であった)というのです。
また、この偽装請負は、2016年1月(組合が本件とは別の救済申立てを行い、組合・日検間で確認書が取り交わされた直前)に、労働者派遣契約に切り替えられていたというのです。
組合員はこのことを一切知りませんでした。
つまり、日検は、2006年以降派遣期間の制限を潜脱すべく偽装請負を行う、また、2016年3月には組合員が申込みみなし制度(労働者派遣法 条の6第1項5号)を活用できないよう偽装請負の事実を隠すべく和解の申し出をするなどしていたことになります。
本件にはこのような特殊性があるのです。
ちなみに、組合員は、偽装請負の事実を知って2017年10月に申込みみなし制度を活用すべく労働契約の申込みを承諾する通知をしました。しかし、府労委は、1年以内に承諾の申込みがあったとはいえない、という形式張った判断しかしませんでした。また、日検の使用者性についても組合・日検間で確認書が取り交わされている事実を重視せず、それも否定しました。
4 さいごに
日検は、偽装請負を行っていたにもかかわらず、その事実を隠して組合員が申込みみなし制度を活用する機会を奪いました。このようなことがまかり通っては申し込みみなし制度など派遣労働者を保護する制度が骨抜きにされてしまいます。
現在、中労委に再審査請求をするだけでなく、労働者派遣法40条の6第1項5号に基づき、日検との間に労働契約が成立したとして、名古屋地裁に地位確認の訴えを提起したとも聞いています。
これら手続の中で府労委命令での判断が改められることを願ってやみません。