出版労連大阪地協 永石 幸司
子どもと教科書大阪ネット21と出版労連大阪地協が事務局団体となり、民法協や自由法曹団大阪支部、関西MICなど の労働組合や市民団体、教育研究団体などの賛同を得て、2019年5月19日(日)に大阪教育集会を開催しました。参加者は50名でした。
◎「誇示」する教科書
東京家政学院大学教授で教育科学研究会副委員長の佐藤広美先生を講師に迎え、「『誇示』する教科書――歴史と道徳をめぐって」という演題で講演をしていただきました。2001年に登場した「新しい歴史教科書」の記述が戦時中に軍事政権がつくった国定教科書『国史』と類似していることや、戦時中の国定教科書『地理』や植民地朝鮮の教科書『修身書』の記述から、戦争と教育、侵略と教育を考えるお話しをしていただきました。
◎依然問題が多い道徳の教科書と検定
大阪ネット21の教科書チームによる報告が行われました。なお、教科書分析には71期の若手弁護士3名にも加わっていただきました。
ここでは道徳の22の徳目のうちの一つ「規則の尊重」をテーマにした題材の特徴を報告します。①「ルールは疑問を持たずに守るべし」といスタンスの題材ばかりです。上位規範に反する下位規範は無効であることを教えていません。②憲法上の権利義務(人権)と私法上の権利義務が混同されています。権利と義務がセットになっている話ばかりです。「『権利』は、生きていくために当然のこととして認められていること。『義務』は、自分の立場に応じて、当然やらなくてはならないこと。」と定義している社もあり、「権利」を「人権」と誤解する文章になっています。専門的知識の裏付けがない検定は有害と言えます。③集団の利益を個人の利益と比較して集団の利益を重視しています。法やきまりに対して自分の権利を主張することが自分勝手な反発と受け取られてみんなに迷惑をかけるという話になり、集団の利益のために個人の権利主張を抑圧する傾向になってしまいます。④法的義務と道徳的義務が混同されています。22の徳目はほとんどが法的義務ではありません。道徳的な規則が入ってきていることが問題です。22の徳目は教育基本法1条や2条の価値につながるべきですが、唯一徳目に入っていないのが1条の「平和で民主的な国家及び社会の形成者」という部分です。⑤子どもの権利条約28条を取り上げた社もあり、これはいい内容だと言えます。
社会科では、検定基準が変更され「閣議決定により示された政府の統一的見解が存在する場合は、それらに基づいた記述がされていること」が加えられ、例えば領土問題では検定意見が相次ぎました。その結果、各社とも「北方領土、竹島、尖閣諸島は(日本)固有の領土である」こと、「竹島は韓国が不法に占拠しているため、日本が抗議を続けている」こと、「尖閣諸島は日本が有効に支配していること。中国が領有権を主張しているが、領土問題は存在しない」ことを明記させられています。他の分野の記述と比べて、領土問題だけが異様に詳しくなっています。
将来の民主主義の担い手となる子どもたちが学ぶ教科書の展示会が各地で始まっています。実物の教科書を手にとって、皆さんの声をアンケートに書いて教育委員に届けましょう。