弁護士 須井 康雄
2017年11月10日から2日にわたり日本労働弁護団第61回総会と60周年記念レセプションが開かれた。
1日目のシンポ、棗一郎弁護士の司会で、上田絵理弁護士(北海道)、佐々木亮弁護士(東京)、風間直樹氏(東洋経済記者)、鈴木剛氏(全国ユニオン)が登壇。
上田弁護士は、北海道新聞社と札幌弁護士会が労働法サロンを開いたところ、新聞社のLINEで普段接点のない人にも取組が広がったことを紹介。佐々木弁護士は、労働時間の適正把握を訴えて、ウサギの着ぐるみで「キロクシロ」と言って踊る動画をユーチューブで配信。労働組合以外にどう伝えるかを常に考え、社会性を感じた事件は、記者に意見を聞くとのこと。すると、違った視点で興味を示されることがあるとのこと。風間氏も消費者問題で冠婚葬祭業界の取材を弁護士にしたところ、雇用形態の問題も教えられ、記事にしたとのこと。鈴木氏は、中小企業の後継者不足問題は好機と述べる。ある農機具メーカーで役員も含めて160名が組合に加入し、暴力的なオーナーを追い出し、労組が自主管理し、増収増益を実現した例を紹介。
民法協の清水亮宏会員が大阪でのワークルールの取組を報告。ロールプレイやディスカッションを取り入れ、クラスのにぎやかな生徒に残業代を請求する役割をしてもらうなど工夫しているとのこと。
神奈川県の団員から、無期転換問題に関し、雇止めを撤回させた事例が報告。団交を重ね、労働委員会の不当労働行為救済申立(不誠実団交)、実行確保措置勧告と労働局の行政指導を活用したとのこと。
労働弁護団賞は、民法協から中村和雄会員が受賞。期間の定めなしの求人票で採用されたが、勤務開始後、有期契約とする書類に署名押印、その後、雇止めされた事案。判決(京都地裁2017年3月30日)は、無期雇用の成立を認めたうえで、有期への変更は不利益変更であり、労働者の自由な意思に基づいてされたといえる合理的理由が客観的に存在するかという観点からも判断すべきとした山梨信組事件最高裁判決の枠組みを採用し、有期への変更を否定。求人詐欺への効果的な対策になることや退職金に関する前記最高裁判決の射程を広げた点が評価。中村会員は、弁護士が当事者と一緒にビラ巻きをしたという塙悟弁護士の話を読んで、若いころは、ビラ配りの時間があれば準備書面でも書けばいいのにと思ったが、今は違う、依頼者と共に闘い、依頼者の現状を裁判所にいかに伝えるかを考える弁護士でありたいとスピーチ。
他に郵政20条東京事件とエイボン事件が受賞。郵政20条事件は、均等待遇に消極的な裁判所に風穴を開けた点を評価。比較対象となる正社員が出廷し、期間雇用社員がいかに自分たちと同じように働いていたかを証言したとのこと。
エイボン事件は、会社分割の際のいわゆる5条協議義務違反により、分割先との雇用契約の承継を否定し、エイボンとの間の地位確認を認めた事案で、会社分割の際に労働者にとって大きな武器となる判決となったことが評価。
レセプションでは、民法協の塩見卓也会員が、若手弁護士を代表してスピーチ。自分が担当したストライキの事案と労働弁護団とのかかわりを述べる。ストライキは、現在、もっと活用の機会を検討されてよい。労働弁護団の来し方と未来をつなぐ力強いメッセージだった。
2日目は、働き方改革一括法案への対応など意見交換。同法案に反対する意見書は労働弁護団のHPで公開。
日本労働弁護団は、会費月額1000円(現在)で、季刊「労働者の権利」がもらえ、MLで労働事件の相談ができる。来年の労働弁護団総会は、2018年11月16日から札幌市で開催。ぜひご参加を。