民主法律時報

労働法研究会 ―労契法20条(不合理な労働条件の禁止)を開催しました

弁護士 谷  真介

2017年10月7日、約1年ぶりに労働法研究会が開催されました。労働法研究会は、研究者と労働組合、労働弁護士を会員として組織している民法協ならではの取り組みですが、最近は1年に1度程度の開催にとどまっています。今回は、いま最もホットな論点である労働契約法20条(不合理な労働条件の禁止)をテーマとしました。参加者は26名でした。

研究会には、この論点について第一人者として研究され、いくつかの事件で鑑定意見書を作成されている緒方桂子教授(南山大学)におこしいただき、基調報告をいただきました。その前には、労契法 条をテーマに大阪でたたかっている郵政20条西日本裁判や大阪医科大事件(いずれも来年1~2月に地裁判決が予定)、旧パート労働法8条で勝訴判決を得られた京都市立浴場運営財団事件について、各弁護団から報告がなされました。

緒方教授からは、労契法20条の各論点についての学説の議論状況や裁判例の到達点について、各弁護団の報告にもコメントしていただきながら、詳細な報告をいただきました。前提として、労契法20条の制定経緯も踏まえ趣旨目的をどのように捉えるかが重要であることを強調されました。緒方教授は憲法上の価値から均等待遇が求められることを原則として捉えられており、そうでない学説との間で不合理性要件の解釈や判断要素の軽重について異なる考え方が導かれていることが、参加者の共通理解となりました。

各論点では、比較対象の問題や不合理性の判断要素について厳しい判決の判断が続いているため、現実的な課題として活発な議論がなされました。

比較対象の問題では、特にメトロコマース事件のように同一の就業規則が適用される無期契約社員のうち一部のグループを抽出して比較することができるのかが、大きな課題となっています。緒方教授からは女性差別に関する兼松事件に示唆を受けた提起がなされ、また中村和雄弁護士からは同一労働同一賃金が進むイギリスでは労働者が誰を比較対象とするのかを決定するというのが当然で、比較対象者がいなくても「仮装正社員」というものを想定して行うほどであるとの指摘がなされました。

不合理性判断については、これまでの判決では、漠然とした合理性の理由(優秀な人材の獲得や定着を図る、長期的な勤務に対する動機付けを行う等)が肯定される傾向にあり、乗り越えるべき課題となっています。今年9月の郵政20 条東京地裁判決では、不合理な差と認めた手当についても、「全く支払われないという点で不合理」として8割や6割の賠償に留めており、そうすると使用者は有期労働者に少しだけ払っておけば良いということになりかねず、大きな問題があります。

最後に、いま政府が来年にも法案を提出しようとしている働き方改革についても、議論を行いました。
久しぶりの労働法研究会に、終了後の懇親会も盛り上がり、萬井会長をはじめ、参加者からはぜひ開催頻度を増やしたいとの意見も出されました。今後、年に複数回の開催を目指したいと思います。テーマ等ご希望がありましたら、ぜひ民法協までお寄せください。

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