民主法律時報

自治体のコンプライアンスを問う―「なくそう! 官製ワーキングプア」第3回大阪集会

「なくそう!官製ワーキングプア」大阪実行委員会 川 西 玲 子

2015年11月1日、エルおおさかで「なくそう! 官製ワーキングブア」第3回大阪集会を開催しました。今年で3回目の開催となります。主催は同実行委員会で、共催は民法協・大阪労働者弁護団・非正規の権利実現全国会議・NPO労働と人権サポートセンター大阪・NPO官製ワーキングプア研究会でした。

午前中は5つの分科会・分散会を開催し、①官製ワーキングプア入門講座②運動の報告と交流の分散会1・2③自治体議員・市民対象の特別講座④混合組合の団結権&少数組合に学ぶ、にのべ103人、午後からの全体会に143人の参加者があり、集会参加延べ人数は246人でした。民法協からは、萬井隆令会長はじめ、多数の弁護士、労働組合、団体の皆さんがご参加いただき熱心な討論がされました。
また、西谷敏大阪市立大学名誉教授、森岡孝二関西大学名誉教授、チャールズ・ウェザーズ大阪市立大学教授、上林陽治さんなど学者・研究者の皆さんにもご協力をいただき、午前中の分科会から全体会のミニ講演、その後の交流会までお付き合い頂き大いに盛り上がりました。

「臨時・非常勤の50のワークルール」調査を実施

今年の集会の特徴は公務職場で増え続ける非正規労働者の働かせ方のコンプライアンスを告発したことです。集会に先駆けて実行委員会では大阪府・大阪市を含む44自治体の臨時・非常勤の50 項目のワークルールチェック調査を行い自治体当局に回答していただきました(調査期間8月4日~9月30 日/自治労連単組協力・その他は市長あてに郵送)。その結果  自治体が回答し回収率は90.91%でした。

この50のチェックポイントは「こうだったらいいのにな」という要求段階のものではなく、法令、行政通知、判例において確定している項目に限定したものです。50項目が措置されていないことは不正な取り扱いということになり、項目によっては違法な取り扱いで損害賠償の対象にもなるものです。しかし、当該の非正規労働者も、使用する立場の当局も公務非正規がどういうワークルールのもとにあるのか理解していないことが多く、そればかりか法知識がないことに付け込んだ自治体の取り扱いさえうかがえます。

調査項目にはそれぞれの項目ごとに根拠となる法令や判例、総務省通知を示し今後の改善に向けて労使で活用できるものにしています。集会では各自治体の項目ごとの回答をそのまま公表し措置率も明らかにして検証しました。一番よくルールが守られている自治体の最高値は92.59  %(一般職非常勤)、反対に最低な自治体は  40.74%(臨時職員)でした。全体的に言えることは、フルタイムで働きながら、短期間の更新を繰り返す臨時職員のワークルールが特に問題が多いこと、継続雇用、雇用継続延長は半数以上で不安定となっています。同じ女性でありながら母性保護では違法も多く人権侵害ともいえる実態もあります。また同一の労働でも待遇面での格差があることを使用者も認めているなど多くの事が読み取れます。まだ本格的な分析はこれからですがこの調査を通して公務非正規のワークルールが社会的に可視化され、公務職場から率先して「働くルール」が改善されるために活用していただけたらと思います。

「現場からの報告」では吹田市雇い止め撤回裁判、阪大地位確認裁判、ハローワーク雇い止め裁判、都庁を相手にストを決行し駆けつけた東京職業訓練校CAD講師雇い止め裁判、郵政の均等処遇を求める裁判等当事者から元気な報告と支援の訴えがあり、東大阪楠根学童保育からは嬉しい勝利判決後の職場復帰の報告もありました。

「『無法地帯』の公務非正規労働者」

ミニ講演は「『無法地帯』の公務非正規労働者」と題して西谷敏氏にご講演いただきました。短い時間でしたが、なぜこのような「無法地帯」が出現したのかという原因に遡り、根本は公務員制度そのものにあると歴史的経過を踏まえて指摘されました。通知等から見る総務省の現在の政策は必要に応じて臨時・非常勤をうまく使いながら、裁判になっても不利にならないように備えをしておくことを指導しているにすぎないとバッサリと切り、「無法地帯」は力が支配する世界である。私たちが正しい秩序の形成(法律改正)を展望しつつ、それぞれのところで力をつけることではないかと話されました。これからの方向が展望できる大変わかりやすい内容で「来てよかった!」という多くの感想が寄せられました。

集会の締めくくりのコメントでは森岡孝二氏からは「公共性の本質的要素のひとつは「規範性」である。公共部門から法やルールや基準が失われるとまさに「無法地帯」と化し今や官民が逆転する実態にある」と  月末に岩波新書から発売されたご自身の著書「雇用身分社会」の内容にもふれながら「なくそう! 官製ワーキングプア」の運動は、官民を問わずまともな雇用を実現し、貧困をなくす運動そのものであると結ばれました。

最後に共催団体でもある非正規労働者の権利実現全国会議から村田浩治弁護士より、問題だらけのまま強行可決した派遣法の問題点を指摘し、さらに運動を強めようという訴えがありました。

正規・非正規、組織・未組織、ナショナルセンターの枠組みを越えて

参加者の所属は今年も66 組織と広がり、大学生6人、自治体議員6人、議員事務所2人、マスコミも新聞4社、そして地域的にも広がりをみせ近畿では、京都・大阪・奈良・兵庫からの参加があり、東京、福岡、そして来年にはこのような集会を北海道でも開催したいと遠く北海道からの参加もありました。

正規・非正規、組織・未組織、ナショナルセンターの枠組みを越えて「なくそう!官製ワーキングプア」という一致点で非正規労働者が草の根から積み上げている運動をこれからも見守りご支援ください。

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