新聞労連近畿地連 伊 藤 明 弘
労使関係論の第一人者、熊沢誠・甲南大学名誉教授と、労働法の第一人者、西谷敏・大阪市立大名誉教授の二人を招いた講演会「労働運動の再生と復権を目指して」が2013年5月30日、大阪市のエルおおさか南館ホールで開催された。この催しは西谷氏の「労働組合法 第3版」の出版を記念して民主法律協会と大阪労働者弁護団が企画。ちょうど同時期に「労働組合運動とはなにか―絆のある働き方をもとめて」を出版した熊沢誠氏を招き、対談が実現した。会場には240人が詰めかけ、熱気あふれる学習の場となった。
最初に、熊沢氏が「労働運動の復権を目指して」と題し講演。近著の執筆に至った理由として労働組合の存在の希薄さを挙げた。
正社員の働きすぎと、非正規労働者のワーキングプアが近年さすがに問題視され、報道される機会も増えているが、報道の中で、現場労働者の発言権、決定参加権の不在には触れられず、労使関係をきちんと論じていない、と指摘。そこに運動の決定的後退があり、組合の存在が希薄になり、組合に期待しない労働者が増えているとした。
その上で、ノンエリートの自立のための労働組合運動、すなわちノンエリートが階級を上げて行って解放されるのではなく、ノンエリートのままで生活の安定と発言権の拡大を獲得するための運動が大切だと強調した。
そして現状の企業別組合はエリートの支配下にあり意義も限定的であるとし、産別組合の企業支部やコミュニティユニオンの重要性を説いた。
また労働条件の個人処遇かが進む中で、労働組合は個別労働紛争を闘う個人の受難に寄り添うべきであるとした。
続いて西谷氏が「労働組合の復権と労働法の課題」と題し講演。冒頭「法に頼りきるのは危険」と警鐘を鳴らした上で、法が労働運動に及ぼす影響について、労働法が良くなれば労働運動が発展するという事はあり得ない、と断言。現在の日本は自発的労働運動に対しては積極的承認の立場にあるが、あくまでも組合が積極的に行動しようとするときにそれを保障するだけのものであるとした。しかし運動が次第に制限されていく中で労働者が萎縮し、さらなる規制がかけられるという悪循環を起こしており、このままでは民法などの市民法に限りなく近づいてしまうと指摘した。
そうした現状を踏まえ、法律主義に陥り過ぎない、現行法を超える運動が必要だとし、労働者個人の権利を最大限に実現するために何が必要かを考え、再度労働組合を捉えなおすことが重要だとした。
また、橋下大阪市長の組合バッシングに市民が加担した例を引き、市民と労働者の対立は、実は労働者同士の対立であり、分裂を生み出すと指摘。国民的課題に労働組合が市民とともに積極的に関わる必要を強調した。
後半は民法協副会長の豊川義明弁護士と大阪労働者弁護団幹事の在間秀和弁護士を加えてのパネルディスカッション。
豊川氏は、労働組合同士のつながりや地域とのつながりの大事さを説き、弱者のために連帯して闘うことが、市民との連帯につながらなければならない、と指摘。
在間氏は、労働法によりかかるのではなく、力にする工夫が必要とした上で、注目されるコミュニティユニオンの役割について、金銭解決型の運動からいかに脱却するかが課題、と問題提起した。
その後、会場からの質問に答える形で、まず熊沢氏が学生への労働問題の教育について、権利だけを教えるのではなく、しんどい時には「助けて」と言える、という存在としての労働組合運動を教える事が大事だとした。
また、女性と若者が労働運動に参画しない問題について、自己責任論の浸透を指摘。そうした意識を変え、労働組合の組織構造を変えるところに進み出て欲しい、とした。
西谷氏は法律を超える運動の例として、労働時間の問題を挙げ、法を守っても過労死が発生する現状に問題意識を持って取り組むべきだとした。また、労働組合運動と市民の感覚の亀裂について、既存の組合はまだ正社員の利権だけを守るという印象が強いと指摘。格差の問題に真剣に取り組まないと、市民との溝は埋まらない、と話した。