民主法律時報

ブラック企業といかにたたかうか――労働相談懇談会が開催されました

弁護士 松 本 七 哉

 2013年4月12日、民法協と労働相談センターの共催による「労働相談懇談会」が開催されました。今回の「ブラック企業といかにたたかうか」というテーマが切実であったためか、従来の懇談会よりも多い約  名の参加がありました。

 まず、河田智樹弁護士から、恒例の前回の懇談会以降(1月から4月)の、判決や労働法制等をめぐる情勢報告が行われました。ビクター差戻審の労働者性を認める判決やマツダ防府工場の派遣社員を正社員と認める判決、大阪市の思想調査での不当労働行為の認定など、この3カ月の間に勝ち取られた貴重な事件が、簡潔に整理されて報告されました。毎回のことですが、この情勢報告を聞くだけでも勉強になります。

 続いて、今回の懇談会のメインテーマ、「ブラック企業といかにたたかうか」を中西基弁護士からお話しいただきました。ブラック企業とは、明らかに違法な行為を行う使用者のことであり、そのたたかいかたは、その違法性をついていくということに尽きるわけですが、中西弁護士は、いくつかの事例で、これを検討しました。

(1) 第1は、「追い出し部屋」の問題です。これは、中西弁護士が実際に取り扱っている事件を例に報告されました。社内や社外で、「就職先」を探すことを業務とされ、中西弁護士が担当する依頼者は、いずれもうつ病等の精神疾患を病んでいるとのことで、その実態の悲惨さが理解できます。これに関しては、ベネッセ訴訟の判決があり、そもそも「追い出し部屋」自体が違法な制度であり、このような部署で勤務すべき義務がないことが認められています。これについては、人材派遣会社が、追い出すべき労働者を「ローパフォーマー」と呼び、このような「追い出し部屋」を作って労働者を追い出すシステムを「販売」している実態があるようです。

(2) 第2は、有期雇用をめぐる改正労働契約法の活用についてです。更新上限を5年とすることにより無期への転換を脱法する攻撃への対応の問題です。これは、個別合意により行われる場合と、就業規則の変更により行われる場合の事案が取り上げられました。いずれの場合も、そのような合意を迫る、あるいはそのような就業規則の変更を行う意図を喋らせ証拠化しておくことが重要です。そのうえで、当該条項を抹消させてサインする。あるいは、サインをしないで更新を勝ち取ります。サインをしないことで雇い止めになった場合、改正法19条でたたかいます。改正法18条の適用を潜脱するような就業規則の変更は合理性を欠き、労契法10条よりその変更自体が無効だと主張できるでしょう。

(3) そのほか、労契法20条による「不合理な労働条件の禁止」が、パート法8条よりも使い勝手がよく、武器になるのではないかとの指摘がありました。

(4) 今回の労契法の改正部分は、今後脱法が蔓延すると、それが「あたりまえ」となってしまう可能性があり、脱法に対するたたかいは、「公序」をつくるたたかいであるとの指摘は共感できました。それでなくても「労基法みんなで犯せばこわくない」の世界です。せっかくの労契約法の改正もそうならないようにするため、労働相談で多くの事案を拾い上げ、脱法を許さない状況を作っていく必要があると感じました。

 中西弁護士の報告後、各地域の労働相談員、地域労組のかかえる相談事例を検討して、懇談会を終えました。次回の懇談会は8月2日(テーマは未定)。
労働事件をいろいろ経験してみたいと思う弁護士さん! こんな実際の様々な事案を前提に、勉強になる企画はないですよ。たくさんの若手弁護士の参加を呼びかけます。懇談会後の懇親会も、第一線で労働相談を聞いている組合の人たちの本音が聞けて、有意義ですよ。

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