弁護士 西 川 大 史
1 はじめに
2012年7月18日、おおさか労働審判支援センター第7回総会が開催され、約25名が参加されました。
2 労働者の権利救済・擁護となるような労働審判の活用を
まず初めに、労働審判支援センター所長の河村武信先生から、ご挨拶をいただきました。
河村先生は、労働審判について「一定の成果を挙げている」と評価されながらも、解雇事件の解決内容のほとんどが金銭解決であるという現状について、「解雇事件であれば職場復帰まで勝ち取ることが本来の権利救済であり、奪われた権利を奪い返すことが重要である。労働者の権利の救済、擁護ができるような労働審判実現に向けて、支援センターが活動していくことが大切である。」との提起がなされました。
3 学習交流講演
次いで、学習交流として、今年度は、2008年4月から2012年3月まで労働審判員として活躍された吉田暢さん(堺労連)に講演をいただき、労働審判員としての豊富な経験を語っていただきました。
吉田さんは、4年間で多くの労働審判を経験されましたが、労働審判にあたり常に心がけていたこととして、申立書と答弁書を何度も読み込み主張整理し、裁判所から審判員には送られない書証についても必ず2回は裁判所に足を運び精査して、審判に臨んだと話されました。吉田さんといえば、有名な東亜ペイント事件の原告であります。吉田さんは、長年当事者として闘った経験があったからこそ、必死になって記録を読み込み、申立内容をくみ取って権利関係を明らかにするという姿勢で臨むことができ、今後は、労働者の権利を理解して判断できるような審判員の増員を期待すると話されました。
近年、労働審判の申立件数が増加し、労働事件の解決手段として極めて重要な役割を有していますが、審判員の中には、記録さえ読んでいないのではないかと疑いたくなるような方も少なからずいます。労働審判の充実のためにも、吉田さんのように、記録を丁寧に精査され、労働者の権利救済実現のために奮闘される審判員が一人でも多く増えることを切に願います。
4 意見交換・討論等
その後、鎌田幸夫弁護士からは、東大社会科学研究所の労働審判調査についての報告がなされ、審理が迅速化する一方で、審判委員会が労働者の言い分を十分に聞いているのか疑問であることや、解決金の水準が低いものが多いことなど、労働審判が泣き寝入りを強いられている労働者救済制度になっているかについて、解決水準も含めて再検討する必要があるとの問題提起がなされました。
また、参加者からは、本人申立の是非や、許可代理の拡充、組合員の同席を求める意見が出されるなど、充実した意見交換がなされました。
5 労働審判事例の集約、分析
労働審判支援センターでは、昨年度に引き続き、労働審判事例を検討、分析するために、民法協会員弁護士及び労働組合から、計50件の事例を集約し分析しました。
今年度に集約した労働審判事例には、地位確認等請求事件で職場復帰解決が2件あったり、高額な金銭解決などの事例もあり、また審判を使った代理人の評価も概ね高いものが多くありました。
集約事例の詳細等については、民主法律協会総会議案書で報告を予定しておりますので、そちらを参照ください。
6 さいごに
労働審判が施行されて今年の4月で6年を迎えましたが、申立件数は年々増加傾向にあり、昨年度は大阪地裁で300件を超える申立がありました。
労働審判支援センターでは、労働審判が労働者の権利救済のために充実した制度となるよう、今後も意欲的に取り組んでいきたいと思います。