民主法律時報

思想調査アンケートによる被害回復と労使関係の改善に関する要望書

2012年5月23日

大  阪  市
市長 橋下 徹 殿

思想調査アンケートによる被害回復と労使関係の改善に関する要望書

民 主 法 律 協 会
会長  萬井 隆令

 貴市においては、橋下徹氏の市長就任以降、「庁舎内での政治活動はいっさい認めない」、「組合事務所は庁舎内から出て行ってもらう」、「公務員、公務員組合をのさばらしておくと国が破綻する」などと職員や労働組合を敵視する発言が繰り返されています。
 貴市が本年2月10日から16日にかけて、任期付職員、消防局職員等を除く全職員に対して実施した「労使関係に関する職員のアンケート調査」(以下、「本件調査」といいます)に対しては、すでに多くの労働組合、法律家団体、弁護士会などから、職員の思想・良心の自由を侵害し、自主的な労働組合の活動に介入する不当労働行為であるとして、厳しく批判する見解が明らかにされています。大阪府労働委員会も、同月22日、大阪市労働組合連合会(市労連)などの実効確保措置の申立てを受けて、本件調査が支配介入に該当するおそれがあると指摘し、貴市の責任において、本件調査の続行を控えるよう勧告したところです。
 橋下市長は、本件調査に際しても、自ら署名した添え書きにて、本件調査が任意のものではなく、「市長の業務命令」であるとして職員に回答を義務づけ、正確に回答しなければ処分もありうるとまで記述されました。
 しかしながら、本件調査は、勤務時間の内外を問わずに街頭宣伝に誘われたり参加したことがあるかや、他の職員から投票依頼を受けたことがあるかなど、職員個人の内心にわたる事項が含まれており、職員のプライバシーを侵害し、思想・良心の自由(憲法19条)を侵害する思想調査にほかなりません。また、労働組合への加入や組合活動への参加の有無から始まり、組合加入のメリットや不利益、組合に対する評価などを回答させて職員と労働組合の相互不信を煽ることまで含まれており、明白な不当労働行為であって、労働基本権(憲法28条)を著しく侵害するものです。本件調査の違法性は明白であって、調査に応じる義務があるとする橋下市長の職務命令は不適法です。
 今般、当協会は、本件調査の実施状況や、その後の職場の状況について、貴市職員から聴き取り調査をいたしました。その結果からは、本件調査により職員の思想・信条や団結権が侵害されるなど、著しい人権侵害が発生していることが明らかになり、加えて、職員の間で自由闊達に意見を交換し、よりよい行政を実現することが妨げられ、住民の福祉を増進させるべき地方公共団体の職場としての機能が大きく損なわれたことが浮き彫りになりました。適法な政治活動を萎縮させ、また、職員の労働条件の維持・向上に努めることを問題視するかのような風潮まで生じさせています。このような事態は到底看過することができません。貴市は、かかる人権侵害を惹起した当事者として、その回復に努めるべき責任があります。
 しかるに、橋下市長も本件調査を実施した野村修也大阪市特別顧問も、本件調査の違法性を認めようとせず、謝罪もせず、被害回復を怠っています。本件調査をめぐっては、不当労働行為救済申立てや、職員らによる慰謝料請求訴訟が提起されたところではありますが、その結論を待つまでもなく、貴市は、本件調査の強要による思想・良心の自由と労働基本権の侵害を真摯に反省し、ただちに、職員に対して謝罪の意を表明すべきです。
 当協会は、以下のとおり、本件調査によって侵害された職員の権利を回復するとともに、損なわれた労使関係を回復する措置を講ずるよう求めます。対応結果につき回答を求めます。

  1.  本件調査によって、職員の思想・良心の自由を侵害したこと、職員組合に対する不当労働行為を行ったことについて、全職員及び各職員組合に対し、謝罪すること
  2.  本件調査に回答したかどうかについてのデータ(職場ごとに回答状況を確認した文書や、庁内ポータルにおけるアンケートサイトへのログイン履歴などを含む)をすべて削除すること
  3.  本件調査に回答しなかったことや、本件調査の違法性を批判する言動をしたことをもって、当該職員に不利益取り扱いをしないこと
  4.  労働組合への敵対的言動を今後二度と行なわず、各労働組合との間の団体交渉に誠実に対応し、相互の信頼関係の確保に努めること

以上

 

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