弁護士 下迫田 浩 司
2012年3月30日、民法協国際交流委員会は、安周永(アン・ジュヨン)先生による「日本と韓国における政権交代の教訓と労働組合の役割」と題する講演会を開催しました。
安先生は、韓国の成均館大学政治学修士課程を修了後、2005年に来日され、京都大学法学研究科博士課程(法政策理論専攻)を修了され、現在、京都大学法学研究科の助教を務めていらっしゃいます。韓国の在外国民として、ちょうどこの講演の日に、難波で韓国国会議員総選挙の在外投票をしてきたとのことでした。
大変流暢な日本語でご講演をなさいましたが、私が韓国のさまざまな政党等についてあまり知らなかったため、本報告は、安先生のお話について思わぬ誤解をしている部分があるかも知れません。ご了承ください。
今回の講演では、韓国における朴元淳ソウル市長の誕生と、韓国における政権交代について、重点的に説明されました。
安先生によれば、日本と韓国の政治の類似点として、戦後安全保障や外交政策に対する国民的合意がないため、経済問題よりも外交問題が主な対立軸となり、政党の理念や政策が曖昧で、対立軸が政策本位よりも人物本位になりやすいとのことです。そのため、ポピュリズムの誕生の危険性が高くなります。
一方、日本との比較における、韓国政治経済の特色として、財閥の影響力が非常に大きいことと、朝鮮日報や中央日報や東亞日報といった保守マスコミの影響力が大きい(日本でいうと、産経新聞が3つあって、それぞれが朝日新聞と同じくらいの影響力を持っているような感じだそうです)ことと、地域主義があります。そのため、日本と比べて韓国は自由化(米韓FTA、EU―韓FTA、医療の民営化など)が進む可能性が高いとのことです。そのような状況下で、ソウル市長選で朴元淳氏が当選したのは驚くべきことです。
ソウル前市長のオ・セフン市長が普遍的福祉の拡散を阻止しようとして、無償給食に対する住民投票を実施したところ、住民投票率が低迷したため、オ・セフン市長が辞職しました。そこで、補欠選挙が行われることになりました。そして、民主党と民主労働党と朴元淳という野党圏の候補三者が、国民参加予備選挙等を経て、一本化されることになりました。
朴市長の当選の構造的要因として、現政権の失政がありました。これは、日本で言えば、自民党政権の失政に当たります。そして、革新勢力の組織化において、無償給食、無償保育、無償医療という「福祉国家」を民主労働党が公約として打ち出しました。
また、韓国では若者の失業問題が非常に深刻で、その不満を吸収する組織が青年ユニオンだとのことです。この青年ユニオンは、日本の首都圏青年ユニオンを参考にして結成したそうです。
韓国の政権交代の経験から得た教訓として、日本では、政治家に期待し過ぎではないか、閉塞状況にある日本をどのように変えるのかは、結局、市民一人ひとりが考え、発信すべきではないか、という問題提起をよって、講演会が締めくくられました。
講演後の質疑応答の中では、先進国の中で企業別労働組合になっているのは日本と韓国だけであることを安先生は指摘され、ただ、韓国では、企業別労働組合ではもう駄目だということで産別労働組合に移行する方向で動いているとのことです。また、日本と韓国は、職務給でないので、同一労働同一賃金を実現する場合に、どのように実現するかという問題があることを指摘されました。これは、日本においても、ものすごく重要な問題だと思います。
質疑の中では、日本の革新勢力は過激化・セクト化する傾向があったのに対し、韓国では革新勢力が統一戦線を組めているのではないかという会場からの声もありました。
現在の日本の政治は、ずっと期待できない状態が続いていますが、結局、私たち市民一人ひとりが、社会をどうするべきかについて考え、発信し、運動していくことが大切なのかなと感じました。