弁護士 中 峯 将 文
- はじめに
民法協・派遣労働研究会では、2012年1月31日と2月8日に、ネクストライ労働組合との懇談会を開催した。
2011年2月1日に、よみうりテレビの関連子会社が合併してネクストライが設立されたことに伴い、旧映像企画労働組合を中心とした、ネクストライ労組が結成され、過半数労働組合となった。しかし、結成後間もないので、組合員の法律知識、活動のノウハウを培うことが急務である。
民放労連ytv労組の平岡さんから、ネクストライ社員は、ネクストライから不当な労働条件を強いられていることさえ認識できていない状況であることを聞き、今回、実態調査を兼ねて懇談会を開催するに至ったものである。 - 1度目の懇談会
1月31日の懇談会では、まず長瀬信明弁護士が派遣法の概要を実際の事件の紹介を交えながら講義し、続いてネクストライの社員が職場の実態を語った。
ある方は、「ネクストライに派遣登録して、よみうりテレビで働いている。これまではフリーのカメラアシスタントとして読売テレビと契約していたが、これからはネクストライに派遣登録してもらわなければならなくなったと言われ、言われるままに登録した。」と言い、「番組1本単位の賃金が1日単位の賃金に変更された。しかも1日に何本撮影しようが額は変わらない。1日1本と言われ契約書に判を押したが、実際には、2本以上入れられた。よみうりテレビは番組2本分で注文しているが、ネクストライは1人だけ派遣することで労働者に支払う賃金を抑えようという魂胆だ。抗議をしたが、「契約書に判を押したのだから問題ない。」と言われた。抗議をしてからというもの、仕事を減らされ、このままでは生活がままならない状態だ。契約書は交付されなかった。後でコピーを見たら、そこには、日給制で給料には深夜・時間外手当を含むと記載されていた。」と窮状を述べた。
ある方は、「これまでは、よみうりテレビさんで一緒に働かせてもらえるだけで満足だった。正社員の方は厳しい試験を経て入られて、一方、私は派遣社員として働いているのだから賃金に差があるのは仕方がないと思っていた。でも、去年の年末から突然、会社の経費を削減しなければならないからと仕事を半分に減らされた。ネクストライから支払われる給料ではとても生活ができない。会社の都合で生活が変えられても訴える術がなく悔しく思っていた。この懇談会の話を聞き、悔しいと感じるのは私がわがままなだけなのかと聞きたくて参加した。」と語った。
また、ある方は、「技術カメラマンをしており、ネクストライの正社員である。現在、ネクストライからよみうりテレビに常駐して働いている。仕事の内容はよみうりテレビの正社員と変わらず、シフト管理もよみうりテレビが行っている。しかし、賃金は番組単位で派遣されていた頃と変わらない。よみうりテレビでの仕事だけでは生活が苦しいので、よみうりテレビの仕事が休みの時には、ネクストライから他の会社に派遣してもらっている。」と語った。 - 2度目の懇談会
日を置かず2回目の懇談をすることになり、2月8日に懇談会が催された。この日は、私が労働基準法の概要について講義し、次いで、村田浩治弁護士が労働組合の意義について語った。
その後、ネクストライ労働組合員の方から、現在労働条件の変更を会社側から持ちかけられており、応じなければならないかという質問があった。 - 調査で判明した労働者の労働条件の実態
参加した社員は、みな夢を持ってよみうりテレビで働いている。ネクストライやよみうりテレビは、その純粋な思いを逆手にとって労働者を安く使おうとしている。このような暴挙を許してはならない。
何よりも問題と感じたのは、派遣制度を利用することで合法的に労働者の人件費を下げられることである。調査で判明したような、常駐派遣社員がよみうりテレビでの仕事だけで生活できない実態、登録型派遣では最低保証がなく会社の都合で仕事を増減させられるという実態は、現在の派遣制度がいかに悪用されているかを浮き彫りにしている。
労働基準法や派遣法等現在の労働法制が不完全な中、労働者の地位を上げる強力なツールが労働組合の交渉である。正社員と非正規社員が団結して交渉に当たらなければならない。 - 今後の取り組み
ネクストライの行動からは、労働組合が結成して間もない今のうちに社員の労働条件を不利益に変更しようとする意図が読み取れる。このような暴挙を許してはならない。そのために派遣労働研究会ではできる限りのサポートをするつもりである。
3月5日には、読売テレビ大阪本社内にて、法律相談を予定している。今後も労組法の講義を予定しており、今後継続してytv労組およびネクストライ労組と関わりを持っていきたい。 - 後日談
後日、私はytv労組の組合員の方と昼食を共にする機会を持った。懇談会に参加してくれていた方も来てくれており、ytv労組とネクストライ労組の両方に入ることを決めたということであった。懇談会を開いたことで、一人でも新たに労働組合に参加しようと決意してくれたことはこの上ない喜びである。