弁護士 岩 城 穣
1 広がり続ける過労死・過労自殺とその原因
過労死が社会問題となって20年以上が経ちますが、過労死は職種・年齢・性別を超えて広がり、近年は過労による精神疾患、特に若者の過労自殺の激増など、いっそう深刻化しています。
その最大の原因は長時間労働であり、その背景には、労基法が36協定で延長できる労働時間の上限を定めていないため過労死ラインを超える36協定が横行していること、そして時間外労働に対する賃金の大部分が支払われていないことがあります。これらが大企業で一般化しているため、中小零細企業やサービス業ではいっそうの長時間労働が常態化しているのです。現在、「過労死ライン」を超える週60時間以上の労働をしている労働者(過労死予備軍)は、男性のフルタイム労働者の25%以上、500万人に及んでいます。
この長時間労働と、労働の高密度化、不規則労働、少人数化と責任の重大化、期限やノルマの厳しさ、職場の支援の希薄化、上司のパワハラといった労働の質的過重性が相まって、疲労・ストレス度を高め、過労死や過労自殺に至らしめているのです。
2 過労死・過労自殺をなくすことは不可能なのか
したがって、根本的には、労基法を改正し労働時間の上限規制を行うことが必要ですが、現在でも時間外労働のガイドラインや労働時間の適正な管理、健康障害防止のための通達が出されたり、労基署が是正勧告を精力的に行うなどの中で、一定の効果も挙げています。これを国レベルで総合的に行えば、現在の状況を改善することは相当程度可能です。
ちなみに、交通事故の死者も、20年前には1万人を超え、過労死の件数とほぼ同じと言われていました。ところが、飲酒運転等に対する罰則の強化、シートベルト着用の義務化、クルマの安全設計の改善などの総合的な取組みにより2000年代に入って着実に減少を続け、2009年には5000人を切り、2011年には約4600人まで減少しています。「交通戦争」とまで言われた死者数を、半分以下にまで減らすことができたのです。
3 「過労死防止基本法」制定の現実的可能性
労働時間の上限規制を直ちに行うことは容易ではありませんが、過労死・過労自殺が多発し、多くの労働者が健康不安やメンタル不全を抱えている状況のもとで、過労死・過労自殺や過重労働をなくすことを目的に掲げた「過労死防止基本法」を制定させることは現実的可能性があります。
これは、①国は、過労死はあってはならないことを宣言し、②過労死をなくすための国・自治体・事業主団体・事業主の責務を明らかにし、③国は過労死に関する調査・研究と総合的な対策を行うことを定めるものです。
4 スタートした「過労死防止基本法」制定の取り組み
2008年秋、過労死弁護団全国連絡会議と日本労働弁護団が「過労死防止基本法の制定を求める決議」をあげたことが契機となって、2010年10月13日衆議院第1議員会館で、過労死防止基本法の制定を求める「院内集会」が国会議員・秘書30名を含む170名以上の参加で行われました。
そして、その後約1年間の準備を経て、「全国過労死を考える家族の会」と「過労死弁護団全国連絡会議」の呼びかけで、2011年11月18日「ストップ!過労死100万人署名スタート集会 兼 過労死防止基本法制定実行委員会結成総会」が、国会議員・秘書約20名を含めた250人以上の参加で開かれ、①100万人署名を中心とした積極的な取り組みを行う、②超党派の国会議員に働きかけ立法化をめざすことが確認されました。
実行委員長に関西大学森岡孝二教授、副委員長には松丸正弁護士、東京の玉木一成弁護士と全国家族の会の寺西笑子さんが就任し、事務局長を私が務めることになりました。
この取り組みは、この半年から1年間で集中的に行います。当面、3月に院内集会を開き、集約した署名の提出を予定しています。
5 民法協の皆さんの絶大なご協力を
上記の役員構成を見てもわかるように、この取り組みは関西が牽引している形となっています。民法協には、過労死問題や安全衛生問題で早くから精力的かつユニークな取り組みを行ってきた歴史があります。ぜひ、民法協として、また会員の弁護士・労働団体・民主団体として、①署名活動へのご協力、②ホームページや機関紙などでの紹介、③関係団体・個人への協力申入れなど、多彩なご協力をお願いします。
また、2月に行われる権利討論集会のいのちと健康分科会でも、今回は過労死防止法をテーマに取り上げる予定ですので、多数ご参加下さい。
このニュースにも、署名用紙・リーフレット・返信用封筒を折り込んでいただく予定です。また、当事務所で署名用紙、リーフレット、返信用封筒、ポスターを用意していますので、必要枚数をご連絡下さい(なお、署名用紙・リーフレットは、実行委員会のホームページからダウンロードすることもできます。)。