民主法律時報

日の丸・君が代強制処分条例に反対するつどい

弁護士 笠 松  健 一

  1.  2011年6月3日、大阪府議会で、府の施設での日の丸の掲揚と学校の行事において教職員に君が代の起立・斉唱を義務付ける「大阪府の施設における国旗の掲揚及び教職員による国家の斉唱に関する条例」が、単独過半数を占める「大阪維新の会」によって強行採決されました。そして、維新の会は、9月20日から始まる大阪府議会に、教職員が君が代の起立・斉唱を強制する職務命令に違反した場合の処分を定める条例を提出すると報道されました。私たち大阪弁護士会の有志は、このような維新の会の動きに危機感をもち、2011年7月に、日の丸・君が代強制処分条例に反対する弁護士の会を結成しました。この弁護士の会の代表は児玉憲夫弁護士、事務局長は私です。弁護士の会では、日の丸・君が代強制処分条例に反対するアピールを発表し、大阪弁護士会会員の賛同を求めて活動しています。現在の賛同数は約500人です。また、9月16日(金)に、関西学院大学教授の豊下楢彦さんをお招きして、日の丸・君が代強制処分条例に反対するつどいを開くこととしました。なお、大阪弁護士会も、5月24日には「君が代斉唱時の起立を義務化する大阪府条例に反対する会長声明」を、9月15日には「大阪府教育基本条例の制定に関する会長声明」を、それぞれ発表しています。
  2.  その後、維新の会は、強制処分条例として、「教育基本条例案」と「職員基本条例案」を用意していることが分かりました。特に、教育基本条例案は、ほとんど全ての条文に問題があると言わざるを得ません。主な点を指摘すると、①、職務命令に5回違反するか同じ職務命令に3回違反すると分限免職とされています。つまり、君が代を起立・斉唱しろとする職務命令に3回違反すると分限免職というわけです。また、②、府知事が、府立高校が実現すべき目標を設定し、教育委員会は、知事が定めた目標を実現するため、指針を作成して校長に指示し、校長はその指針を基に学校を運営するとされています。しかも、③、教育委員会の委員が知事の定めた目標を実現する責務を果たさない時は、教育委員を罷免するとされており、府知事が教育行政を支配することになります。そして、④、教育委員会が有する人事権に知事が介入することが可能となります。しかし、これは法律に違反するものです。⑤、教育の基本理念としては、規範意識・義務・自己責任が強調され、愛国心教育を行うことが明記され、国際競争への対応が掲げられています。そして、⑥、大阪府全体を1学区とし、学力テストの結果を公表して全府立高校を序列化します。そうすると、成績の悪い学校は定員割れを起こすことになりますが、3年連続定員割れした高校は統廃合するというのです。⑦、競争は教職員の間にも導入され、校長は教職員を5段階に相対評価し、5パーセントの教職員は最低評価を受け、その評価は給与や任免に反映されることとなります。その他にも重要な問題点がありますが、全体として、今の教育体制を崩壊させるものと言えます。
  3.  9月14日の読売新聞によると、維新の会内部にも強い反対意見があることが報道されています。9月16日には、維新の会と大阪府総務部や大阪府教育委員会とが意見交換をしましたが、条例案に対する批判が噴出しました。橋下知事の肝いりで教育委員になった陰山英男委員も「私やめます。できませんよこんなの」と発言したと報道されています。
  4.  そのような情勢下、9月16日に弁護士の会主催の「日の丸・君が代強制処分条例に反対するつどい」が、中之島公会堂で開かれました。会代表の児玉憲夫弁護士が、会結成の趣旨・目的等を紹介し、現在の情勢も含めて開会のあいさつをしました。私からは、現在の情勢、特にその日に行われた維新の会と教育委員会との意見交換の様子等を報告し、教育基本条例の問題点を指摘しました。豊下楢彦さんは、教育統制のシンボルとしての戦前の「奉安殿」の話から始め、教育基本条例案は形から入ることを強調するものであること、愛国心の強調はエリートの腐敗と結びつくこと、明仁天皇は憲法の遵守を明言したという天皇の立ち位置の話、知事が教育の目標を設定することは教育内容の統制に至ること、権力エリートの無責任さの表れが大阪府庁舎の移転問題であり、橋下知事は、府庁舎咲洲移転問題で府民に1200億円の負担をかけた責任を取るべきだとされました。次に教職員から、現在の高校の状況について報告があり、アメリカから駆けつけてくれた薄井雅子さんから、アメリカでは、国旗への敬礼と「忠誠の誓い」への唱和が憲法に違反するという連邦最高裁判決があること等が紹介されました。そして、元ニュースペーパーのソロコメディアン松元ヒロさんが、コントを演じました。松元さんは、鋭い切れ味で政府や権力者の問題点を指摘しました。最後に集会アピールを採択して閉会しましたが、平日の夜にもかかわらず、約200人の参加者があり、私たちの運動次第で、廃案にできることを確認できる集会でした。

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