大阪から公害をなくす会事務局長 中 村 毅
本年3月11日に発生した東日本大震災は、私たちに大きな衝撃を与えました。その様相は、16年前に経験した阪神・淡路大震災とは、被災地域がとてつもなく広範囲であること、津波が被災の主因であったことなど、大きく異なるものでした。私も4月の下旬に大阪民医連の仲間と一緒に宮城県へ支援に行きましたが、津波に襲われた地域の見る影もなく、町そのものが無くなっている状態を目の当たりにして声も出ませんでした。近畿でも近い将来、東海・東南海・南海地震の連続発生が警告されており、大阪の地震・津波問題に改めてスポットを当てて、防災問題を検討する必要があると思いました。
加えて決定的な違いは、今回は原子力発電所(原発)の事故が絡んでいることです。東電福島第1原発の事故による被害は半年近くを経過した今日でも、被災地はもちろん関東・中部など東日本全域に及び、復興への道のりを困難かつ長期のものにしています。
福島原発事故から学んだこと
今回の福島原発事故で私たちは二つのことを学びました。
第一は、原発が一旦過酷事故を起こせば、放出される放射能による被害は大気、海洋、土壌などあらゆるところに広がり、人の健康はもとより農業・畜産・漁業・林業・産業など全ての分野に深刻な被害を及ぼすこと、しかも長期にわたって及ぼすということです。内部被曝による人体への影響は後々になって現れるものであり、原子炉を「廃炉」にするにもしても一応の収束までに20年、30年という長い年月が必要となります。その点では他の事故とは比べものにならない大規模で長期かつ深刻な事態になるというのが原発の事故だということです。
第二は、加えて今の原発は、仮にカッコ付で「安全性」が確保されたとしても、原子力発電の過程で日々生成される放射性廃棄物、いわゆる「死の灰」の最終処理方法が確立されておらず、行き場のない放射性廃棄物が溜まる一方の状態にあることです。言わば“トイレのないマンション”状態で操業が行われており、原子力発電を続ければ続けるほど蓄積される放射性廃棄物、特に高濃度放射性廃棄物の問題が深刻になります。モンゴルの地下300メートルに埋設し、何十万年も管理するなどと言う荒唐無稽で、文字通り無責任な話が真顔で語られるほどこの問題は深刻です。
こうして今回の原発事故は、現在の原発には絶対の「安全性」など無いこと、ひとたび重大な事故が発生すれば事態を制御できないこと、技術的にも全く未完成であることなどを明らかにしました。
近畿・大阪も他人事ではない
宮城県に支援に行った時、地域訪問をしていて地元の人から「福島にあんなに沢山の原発があるなんて初めて知った」「福島にあるのだから当然東北電力のものだと思っていたら東京電力のもので、改めて驚いた」といった話を何人かから聞きました。こうした構造は、福島だけではなく、近畿でも同様の事態となっています。
関西電力の原発は美浜3、大飯4、高浜4と福井県に11基あり、日本原電の敦賀原発2基を含めれば13基にもなり、正に福井は“原発銀座”となっていますが、その最大の電力消費地は大阪です。関西電力はこの他にも四国電力の伊方原発、中国電力の島根原発からも電力の供給を得ており、原発依存度は日本一になっています。そして、もし福井の原発群で今回同様の事故が発生すれば、真っ先に琵琶湖の水が汚染され、琵琶湖の水を飲料水として使用している近畿1400万人の水が危機に瀕することは火を見るより明らかです。最近、福井の原発の下には活断層がいっぱい走っていること、福井でもかつて大きな津波があったことなどが明らかになってきています。また、運転開始から30年以上経過している原発が8基も集中しています。原発の問題は、福島、東北・関東だけの問題では無く、正に大阪・近畿の人にも突きつけられた重大問題です。
原発ゼロを目指す私たちの府民運動
いま国民の中では、原発の「安全神話」に厳しい批判の目を向け、地震・津波国である日本は原発とは共存できない、後世に大きなツケを残す原発は推進すべきでないとして、原発の廃止を求める声が大きくなってきています。また、ドイツ、スイス、イタリアなどでは原発から撤退する方針が明確に打ち出されるなど、原発依存からの転換をめざす動きは世界的に広がっています。
私たちは、福島第一原発の事故を教訓に、次の2点を一致点にした新しい府民運動を考えています。
①原発は地震国日本にとっては余りにも危険です。原発は廃止して、ゼロにしましょう。
②日本の電力・エネルギー政策を自然エネルギーの方向に大きく転換しましょう。
私たちはこの府民運動を団体だけでなく、著名な方にも呼びかけ人になってもらい、幅広い団体・個人の参加のもとに10月15日には「発足の集い」を開催して、「原発をなくし、自然エネルギーを推進する大阪連絡会(略称:原発ゼロの会)」として正式に発足させる予定です。
私たちは、この運動は長期にわたるものと考えています。また、自然エネルギーへの転換は、地域で運動を起こし、具体的な形にしていくことが決定的に重要だと考えています。皆さんのご参加とご協力を宜しくお願いします。