弁護士 長瀬 信明
- 本年6月6日、毎年恒例の派遣労働研究会と大阪労働局と懇談が行われました。派遣労働研究会から12名と大阪労働局から4名が参加し、当初の予定時間を超え、活発な意見交換がなされました。
- 懇談は、派遣労働研究会が事前に送付していた質問に労働局側が回答した後、質疑応答がなされるという形式で行われました。(1)2010年の大阪労働局における統計について
労働者からの申告件数は6件、情報提供は0件とのことでした。相談件数については、統計がないとのことでした。
大阪労働局で是正指導をした件数及び違反内容ごとの件数については、集計中とのことで、集計が取れ次第、マスコミやホームページで発表するそうです。ただ、概数については、回答が得られました。是正指導を行った件数については、事業者数で1000件を少し超えるくらいあり、指導がなされた件数のうち、偽装請負は30半ばくらいだそうです。業務偽装については、集計していないそうです。
申告から是正指導までの期間についても、統計はないが、概ね長いもので2か月、短いもので半月程度とのことでした。
指導の結果の内訳については、そもそも統計をとっていないそうです。統計を取らないのは、通常、是正指導書を渡し、指導内容に沿った是正がされているだろうという前提だからだそうです。
直接雇用の申込み義務に関して指導・勧告を行った件数についても該当するものはないそうです。なお、直接雇用の「推奨」の結果については、統計をとっていないそうです。ただ、期間制限違反等があれば、ほぼ例外なく直接雇用の推奨を口頭でするとのことです。
直接雇用の申込に関する申告があったかどうかについて、そもそも直接雇用をすべき要件を具備した違反がないので(派遣先が派遣元から抵触日に関する通知を受領していないので。派遣法40条の4)、申告があっても直接雇用を申し込むようにとの指導をしておらず、統計上、カウントしていないのだそうです。これに対して、まさに法の不備を示すものである以上、統計をとるべきとの意見が出されました。
違反行為をしていた派遣元事業主に対する告発や、許可の取消、事業停止命令、改善命令等の件数については、改善命令について、3件(多重派遣2件、適用除外である建設業務への派遣1件)という報告がありした。なお、許可の取消等がほとんど行われていない理由は何かという質問に対しては、そうした処分が妥当する事案があれば、当然、行うという回答でした。
単なる是正指導と改善命令の違いについて、改善命令は行政処分となるので、相手方に対して、弁明の機会の付与等を行った上で命令を行うことになるとのことでした。改善命令を行えば、マスコミやHPを通じて発表し、命令に基づいて是正が確実に行われるようにしているそうです。
どのような場合に、改善命令が下されるのかについては、一定の基準を示してしまうと、業者にその数字さへ守ればよいと思われてしまうので、重大・悪質な事案、例えば、違反行為を繰り返したり、違反の期間が長いケースに改善命令をするとしか回答できないとのことでした。
派遣法49条の2第2項に基づく勧告及び公表が行われた件数については、ないという回答でした。
職業安定法48条の4による申告件数及びその内容については、申告件数は1件で、二重派遣のケースとのことでした。なお、職業紹介事業者に関しての申告はないとのことでした。職業安定法48条の2の指導・助言の件数及びその内容については、上記のケースで同法44条の「労働者供給事業」にあたるとして是正指導したとのことでした。(2)是正指導の申告を弁護士が代理した場合の労働局の対応について
是正指導を求める申告は、当該労働者本人でなければならないのか、弁護士による代理は認めるのかという質問に対して、申告者本人が原則であり、代理人が来た場合、いったん受理するが、後に本人から直接事実関係を聞くことにしているとのことでした。文書提出のみをもって直ちに申告として取り扱うことはできず、本人が来て初めて申告となるとのことでした。
代理を認めない場合、その法律上の根拠、実質的理由は何かという質問に対して、法律上の根拠としては、派遣法41条の3の「派遣労働者は」という文言であり、具体的に情報を聞き取ることが後の手続において効果的なので、本人から事実を聞き取ることを原則としたいということでした。
この点について、法律上、弁護士による代理を禁止していない、他の申告(例えば、警察への告訴)等において、弁護士が代理人として、活動してる等の批判的な意見が出されました。
また、弁護士会の自主事業として、労働局申告の代理援助を認め、積極的に奨励しているが、このこととの整合性をどう考えるかという質問に対しては、一応全国一律の扱いになっているはずであるが、厚生労働省に問い合わせて欲しいとのことでした。ただ、厚労相からの通達等はとくになく(大阪労働局の対応の仕方について、厚労相から間違いであるとの指摘は受けていないそうです)、事実上都道府県に任せられているとのことです。(3)申告に基づく指導・助言・勧告・企業名公表について
「現下の厳しい雇用失業情勢を踏まえた労働者派遣契約の解除等に係る指導に当たっての労働者の雇用の安定の確保について(平成20年11月28日)」の通達に基づく直接雇用の推奨は、派遣法48条1項の指導・助言として行われるものかという質問に対して、派遣法48条の指導とは別であり、雇用対策の一環であるとの回答でした。
派遣法48条1項の指導・助言において、当該派遣労働者を雇い入れるよう指導・助言する場合とは、どのような場合かという質問に対しては、「労働者派遣事業関係業務取扱要領」(以下、「取扱要領」といいます。)の第9の4(7)ホに該当している場合(派遣受入期間を超えて事実上派遣先において就業を継続している場合)であるとの回答でした。
派遣法49条の2第1項の「必要な措置」の中には派遣労働者を雇い入れるよう勧告することも含むかという質問に対しては、含まないとの回答でした。
派遣法49条の2第2項に基づき勧告をする場合とはどのような場合かという質問に対しては、取扱要領の第9の4(7)ホに該当している場合との回答でした。また、違法な労働者派遣が終了している場合には勧告を行うことができないのかという質問に対しては、違法な派遣でも終了している場合は勧告はできないとの回答でした。
なお、派遣法44条の2違反等で一般的指導をされたにもかかわらず、違法派遣が継続している場合、例えば、1か月以内に是正しろと指導したにもかかわらず、是正されない場合、直ちに勧告が可能か、雇い入れの指導をした上でないと勧告できないのかという点については、明確な回答は得られませんでした。取扱要領を素直に読む限り、要件を満たせば、直ちに勧告することが可能だと思われますが、そうした運用はなされていません。通常、労働局が一定の指導をすれば、従うであろうということらしいです。
また、以下の場合(派遣法40条の2違反を念頭に)、どのような対応が考えられるかという質問に対しても回答を得ました。
まず、派遣就業中、派遣法49条の3の申告がなされ、労働局が是正指導したが、派遣就業を継続する場合、派遣就業を継続している理由を調査の上、速やかに是正指導するが、正当な理由がない場合は勧告を検討するとのことです。
次に、派遣就業中、派遣法49条の3の申告がなされ、労働局が是正指導し、その後、派遣就業を終了したが、派遣元・派遣先が、派遣労働者の雇用の安定を図る措置をとらない場合、法違反については是正が完了しているが、雇用の安定を措置を図る措置がとられてないので、当該労働者の雇用の機会を与えるための指導が継続するとのことです。ただ、従わない場合はどうしようもないとのことです。
さらに、派遣就業中、派遣法49条の3の申告がなされ、労働局が調査中に、派遣就業を終了したが、派遣労働者の雇用の安定を図る措置をとらない場合、調査時点において派遣可能期間を超える期間、派遣の役務提供を受けていれば、是正指導書の交付は行うとのことです。ただ、是正のための措置として雇用の安定を図る措置の対象となる労働者は、是正指導時に就業している労働者であることが必要だとのことです。
なお、口頭での指導時には労働者が派遣就労していたが、指導書交付時には派遣就労していない(この間に切られた)場合には、雇用の安定を図る措置の対象とならないことになるとのことでした。
この点については、契約期間を1か月など短くされて、是正後に期間満了を理由に雇い止めされるケースもあり、運用を見直すべきとの批判が集中しました。
また、派遣法49条の3第2項の不利益取扱いの禁止とは、具体的にどのような場合が想定されているかという質問に対して、解雇・降格・賃金引き下げ等、他の労働者と比較して不利益な取扱をすることであり、申告をしたことを理由とする派遣契約の解除も含まれるとの回答を得ました。
不利益取扱いを行った場合、どのような是正措置がとられるのかについては、ケース・バイ・ケースという回答でした。これに対しては、公益通報者保護法の場合のように、申告を理由に契約を解除されたなら、解除が無効であるとして、復帰させるよう指導することも可能なのではという意見もありました。(4) 派遣先が、法27条に違反して労働者派遣契約を解除した場合、どのような是正措置がとられるのか、派遣労働契約が解除されている場合はどうかという質問についても、ケース・バイ・ケースという回答でした。
(5)指導書等の開示について
前回の懇談会の際、是正指導書、派遣先・派遣元からの是正報告書、臨検報告書等の文書の送付嘱託や文書提出命令があった場合について、「現時点で申し上げると文書の送付は出来ない。」との回答でしたが、現時点においても変わりがないかとの質問に対しては、現時点では昨年と変わらず、請求があったときに考えるとの回答でした。