民主法律時報

立正運送解雇事件 勝訴的和解報告

弁護士 脇 山 美 春

1 立正運送解雇事件について

本事件は、立正運送株式会社(以下「立正運送」とします)と社長を相手として、退職強要・解雇をされた2名の従業員(以下、「原告A」「原告B」とします)が労働契約上の地位の確認を求めて提訴した事件です。事件のより詳細な経過については、民法協ニュース 22年12月号に掲載されておりますので、詳しくはそちらをご確認ください。

2 主張立証活動

(1) 事件の概要
原告Aは、立証運送の就業環境改善を目的として、労働組合を新たに結成し、執行委員長を務めていました。原告Bは、労働組合員ではないものの、副所長として他の管理職に対し、職場環境の改善を上申する等してきました。

しかし改善がみられないため、原告Aと原告Bは協力し、原告Aの名前で労働基準監督署に対し労働者の過重な労働実態を報告しました。これをうけて監督署が調査にはいったところ、立証運送の社長は、まずは原告Bに対し、情報漏洩を理由として刑事告訴をすると述べたうえ、解雇か自主退職かの二択を、その日のうちに決めるよう迫りました。原告Bがこれに耐え兼ね、退職届を記載し提出したところ「次はAだと、Aに伝えろ」と社長は発言しました。

数日後、社長は宣言通り原告Aを呼び出し、原告Bにしたのと同様、解雇か自主退職かの二択を迫りました。原告Aが自主退職を拒絶すると、立証運送は、原告Aを解雇しました。

(2) 原告2名での提訴となるに至った経過
原告Aは、不当な解雇を撤回させるべく、堺総合法律事務所の平山弁護士に相談をしました。その中で、同じように退職を迫られた原告Bがおり、不当な退職強要を争う余地がないか、弁護士に相談しているとの話がありました。

当職らは、立証運送の行為は公益通報に対する報復行為であり、原告A、Bは公益通報を協力して行った立場であるから、二人一緒に訴訟手続きを行った方が、実態がより明らかになるためお互いにとっていいと判断し、原告Bも含めて、2人で裁判手続きに臨むこととしました。

(3) 原告2名での訴訟活動により見えてきた事実
原告Bは、社長からの退職強要の場面を録音してはいませんでした。しかし原告Aは、社長から呼び出しを受けた直後から、一連のやりとりを録音していました。原告Aの録音記録を証拠として提出することで、原告Bに対しても同様の退職強要が行われたことを立証することができました。

また、原告Bは、退職強要を受けた直後から同僚に相談をし、労働基準監督署や他の弁護士事務所への相談を繰り返しており、その記録が残っていました。これもまた、原告Bに対する退職強要があったことを裏付ける資料となりました。

そして、原告Aと原告Bが共同して訴えたことで、社長が公益通報に対する報復を目的として、通報に関わった両名を職場から排除しようとしたことがより鮮明に裁判所に伝わり、裁判所からは、原告Aの解雇無効・原告Bの退職の意思表示は民法 条の錯誤に基づく取消が認められるという前提での和解提案がなされました。

3 和解に至る経過

原告Aは組合の執行委員長であり、原告Bもまた立証運送の管理職クラスにあり、組合員も社長の尋問を待望していたため、復職前提の和解も視野に入れつつ、退職前提の和解をするのであれば、会社がやすやすと原告A、原告Bを追い出したとはいえないような金額での和解をするという方針で和解協議を行いました。

結果、立証運送が原告Aの解雇の意思表示を撤回し、原告Bの退職の意思表示が取り消されたことが確認されたうえで、相当高額の解決金を支払うとの内容の和解が成立しました。

4 本件についてのまとめ

本件は、公益通報者保護法3条による解雇無効が争われたケースであり、また組合の執行委員長が職場環境是正のため動いたところを狙い撃ちするという、典型的な不当労働行為事件でもありました。期日の中で、弁護士から「この事件は組合潰しの事案です」と指摘したところ、担当裁判官(岩崎裁判官)が、「まあそうでしょうね」と認めたという、珍しいことがあったほどです。

職場復帰を叶えることができなかったのは非常に残念ですが、複数名で訴訟活動を行ったことにより、いい解決ができた例ではないかと考えております。

(弁護団は、平山正和、脇山美春)

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