民主法律時報

舞台は最高裁へ ~コード雇止め事件高裁判決のご報告

弁護士 諸 富  健

1 はじめに
本件については、本誌2022年11月号に原稿を掲載していただきました。改めて事案を簡単にご紹介すると、2018年5月7日にパート従業員として入社した当事者が、3か月の試用期間を経て正式採用(1年の有期労働契約)されたものの、2年後の2020年8月6日にコロナ禍による影響で経営悪化したことを理由として雇止めされたために、本件雇止めは無効であるとして、地位確認等を求めて提訴したという事件です。それに対し、会社は、原告の記者会見や原告を支援する労働組合の抗議書面等によって名誉毀損・信用毀損、業務妨害されたとして、440万円の損害賠償を求める反訴を提起したことから、これは嫌がらせ目的のスラップ訴訟だとして、追加で損害賠償を求める訴えの変更をしました。

2022年9月21日、京都地方裁判所第6民事部(光吉恵子裁判官)が双方の請求を棄却する判決を下したため、双方が控訴しました。この控訴審判決(大阪高等裁判所第民事部、裁判長裁判官宮坂昌利)が本年4月21日にあり、双方の控訴が棄却されました。

2 不当な控訴審判決
原判決が「原告の雇用継続に対する合理的期待を認めるのは難しく、そうでないとしても、その程度は必ずしも高いものということはできない」と判示したことから、改めて原告には契約更新の合理的期待が存在することについて厚く論証しました。

ところが、控訴審判決は、本件労働契約が資格や特殊な技能を必要としない代替可能なものであったこと、雇用期間1年の有期契約であり1年ごとの契約更新となることは雇用契約書に明記されている一方、契約締結時に被告代表者から定年まで働けると聞いた旨の原告の供述は採用できないこと、1回目の契約更新を経た後2020年3月の被告代表者らとの面談時に今後の更新については流動的であるとの趣旨を告げられていたことに照らすと、原告は、契約締結時にもその後においても、本件労働契約の雇用期間が1年であって当然に更新されるものではないことを十分認識していたということができるとしました。そして、更新回数が1回で、雇用通算期間が試用期間を含めても合計2年3か月に過ぎなかったことも勘案すると、契約更新の合理的期待を有していたと認めることができないと判示しました。

しかし、そもそも原告が担当していた業務は被告において必要不可欠な工程で恒常的な業務ですが、控訴審判決はその点を完全に無視しています。また、原告が就労を開始したのは55歳4か月で被告の60歳定年まで4年7か月余りでした。雇用契約書には「甲及び乙が両者の雇用契約の継続を望んだ場合は、本雇用契約は、同内容で1年間に限り継続し、その後も同様とする。ただし、乙が定年(60歳)に至った時点で、乙は退職する。」と明記されており、原告が定年まで働けるだろうと期待を抱くのは当然です。しかも、1回目の契約更新時には、被告は原告に対して何らの聞き取りもせず、何らの意思表示もされることなく、自動的に契約が更新されたのですから、当然契約更新の合理的期待が認められるべきです。にもかかわらず、控訴審判決は、1回目の契約更新時の事情について一切触れず、雇用契約書の記載が60歳までの雇用継続を十分に期待させるものというこちらの主張を「原告に一方的に有利に曲解しない限り、そのような読み方はできない」と切って捨て、「仮に、原告が更新の期待を抱いていたとしても、合理的な理由に基づかないものといわざるを得ない。」と断じました。

原判決は、契約更新の合理的期待について認められないとは断言せず、「その程度は必ずしも高いものということはできない」としたことから、本件雇止めの客観的合理性・社会的相当性の論証をしましたが(もちろん、その内容は不当なものでした)、控訴審判決は、契約更新の合理的期待を否定したため、本件雇止めの客観的合理性・社会的相当性については、「原判決が『事実及び理由』中…で説示するとおり」の一言だけで簡単に認めてしまいました。不当な原判決よりもさらに後退した酷い判決と言わざるを得ません。

3 舞台は最高裁へ
民法協では、昨年12月に判決検討会を開催していただくなどご支援いただきましたが、力及ばず酷い判決を受けてしまったことに忸怩たる思いです。このまま確定させるわけにはいかないため、上告及び上告受理申立てをしました(会社側も上告及び上告受理申立てをしています)。上告審では、学者に意見書作成もお願いして、控訴審判決を覆す論証に力を入れる所存です。最後までのご支援をよろしくお願いします。担当弁護士は中村和雄弁護士と当職です。

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