1 厚生労働省は、M&Aに関する考察・助言業務を専門業務型裁量労働制の対象として追加するだけでなく、「課題解決型提案営業」と「裁量的にPDCAを回す業務」についても裁量労働制の対象業務と含めることを予定していると伝えられる。
2 2022年12月6日付の「裁量労働制の適用対象拡大の動きに反対する緊急声明」で指摘したとおり、2021年6月公表の「裁量労働制実態調査」により裁量労働制が長時間労働を助長することが明らかになっている上、対象業務以外に従事する労働者に適用されるなどの濫用のおそれがある。また、業務の量や期限に関する裁量は要件とされておらず、使用者が業務の量・期限を一方的に決定した結果、結果的に残業・長時間労働を強いられる事態が避けられない。労働者の同意を得るという歯止めだけでは公正な運用が図れない制度であり、対象業務の拡大を安易に認めることはできない。
3 2022年12月27日の労働政策審議会労働条件分科会に提出された報告書では、銀行・証券会社のM&Aに関する考察・助言業務を専門業務型に追加することが記されているものの、「課題解決型提案営業」と「裁量的にPDCAを回す業務」を対象とすることとは記載されていない。「現行の対象業務の明確化を行うことが適当である」と記載されているが、あくまで「現行の」対象業務の明確化であり、解釈を変更して対象を拡大することは盛り込まれていない。
4 そもそも、「課題解決型提案営業」と「裁量的にPDCAを回す業務」については、2015年の労働基準法等の一部を改正する法案や、2018年の働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案要綱において、企画業務型の対象とする案が盛り込まれていたが、反対の声が強く、最終的に法案から削除された経緯がある。
厚労省は、これらの業務が対象外であることを前提に、追加するためには国会における審議を経た上での法改正が必要であることを認識していた。しかし、公益委員の労働法学者と厚労省労働条件政策課長が、上記2業務について、解釈変更によって専門業務型の対象業務とし得るとの見解を示したと伝えられている。それは、法改正が必要であるという従来の前提を否定し、議会制民主主義を破壊するものである。また、従来は企画業務型の対象拡大として議論されていたものを、十分な議論もなく、専門業務型の解釈変更によって対象化しようとするものであり、この点においても問題が大きい。
5 民主法律協会は、裁量労働制の対象業務の拡大に断固として反対するとともに、不適切な裁量労働制の運用がなされないように手続・要件を厳格化し、労働者の健康確保措置を講ずることを強く求める。必要なのは、まともな労働時間規制である。
2023年2月1日
民 主 法 律 協 会
会長 豊川 義明